蝋人形城殺人事件10
次の日である。レッドラムの声に起こされて、俺とアキは廊下へと出る。その場にいた金田一と美雪さん、明智警視と合流し、西の塔へと向かう。鍵のかかったドアを明智さんが蹴破れば、テーブルの上にリチャードさんが横たわっているのが見える。胸元には杭だ。慌てて近づけば、どうやら人ではなく、蝋人形のようである。
「なんだよ、驚かせやがって」
「だな、」
俺と金田一がそう言えば、アキが「本物のアンダーソンさんは」とつぶやき、明智警視がハッとする。
「リチャードの部屋だ!」
「え?」
「昨日、当麻さんが殺害された時を思い出してみて」
アキの言葉に、金田一がハッとする。昨日、当麻さんが殺害された時。先に『人形』の殺人事件が起きて――それから、同じ方法で、当麻さんが殺されている。
もう一つの扉を蹴破り、リチャードさんの部屋へ向かう。金田一が扉を開ければ、ロウソクが揺らめく部屋が見える。
そして――。
アンダーソンさんが杭を打たれた状態で殺されていた。
「また蝋人形と同じポーズですね」
「! そうだ。犯人は――まだ近くに隠れているかもしれん!」
そう言って走りだした明智警視と金田一を見送って、俺は死体に近づく。
「うぇ」
よくよく見れば、杭が心臓に刺さったままだ。でも、恐らく死因はこれじゃない。死因がコレなら、周りに多数空いた穴の説明ができないからだ。
「ヤマト、あまりジロジロ見るのは感心できませんよ」
そう言って俺を抱き上げたアキは死体をちらりと見る。「これで無数の穴がなければ、高遠さんっぽいですね」だなんて呟いたアキに、一瞬、高遠が関わっているのかと思ったが、恐らくは関わっていないだろう。というか、既視感の謎が解けてない。おそらくは、漫画か何かで見たんだろうが、記憶に留めてない。少なくとも六年前になるわけだから、当たり前といえばあたりまえだが。
遅れて明智警視たちと合流すれば、全員が集まってきていたようで、もう一度アンダーソンさんの死体とご対面した。全員が顔をしかめ、口をふさいでいる。
「み、皆殺しだ! 俺達は全員、レッドラムに殺されるんだ!」
「坂東さん?」
「う、うわああああ!」
そんな叫び声を上げて部屋にこもった坂東さんに、アキがポツリと「あの怯え用は、おかしいですね。まるで自分が殺されるのを予感しているようです」と呟いた。まぁ、自ら死亡フラグをたてたようなものである。恐らく、なにか心あたりがあるんだろう。
フリードリヒさんが検死をするらしいのので、アキと明智警視の視線をくぐり抜けて部屋の中に入る。フリードリヒさんは俺を見て、「あら?」と声を上げた。
「邪魔しないから見てていい?」
「死体を見るのが好きなんですか?」
「ううん、法医学の勉強してて。あー……監察医になろっかな〜、と」
そう答えれば、フリードリヒさんは何かに驚いたようである。俺が首を傾げると、いいえ、と首を振った。
「貴方の見解は?」
「……さわってないからアレだけど、死因は心臓のくいじゃなくて周りの無数に空いた穴なんじゃないかなと思ってる」
「ええ、そのようです」
フリードリヒさんが、杭を少し持ち上げる。あまり血はついていない。
「死因はこの穴による出血多量でしょう」
「出血多量と出血性ショックってどう違うんだ?」
「出血性ショックは循環血液量が急激に減少したために起こり、そのショックにより死ぬんです。それに比べ、出血多量死は、生命維持に必要な最低限度の血液が体内から失われて死似¥にます」
「一度に急激に大量出血したら前者、じわじわとでも血が止まらなかったら後者ってことか」
ふむ。何時も混同していたが、ぜんぜん違うものみたいだ。と、いうことは、アンダーソンさんは嫌な死に方である。意識があったりでもしたら絶対嫌な死に方だ。
「この大量の穴は、何か釘みたいなもので刺されていたようです」
「釘みたいなもの――?」
「ええ」
大量の釘みたいなもの。どこかで――。
そう考えこめば、フリードリヒさんは俺を見てくすりと笑った。
「やっぱり、そっくりです」
「え?」
「いいえ」
そういってニコリと笑ったフリードリヒさんは立ち上がる。簡単な検死が終わったらしい。外へ出たフリードリヒさんを見送って、俺はアンダーソンさんの死体を見下ろした。無数の穴。釘みたいなもの。
「――あ」
頭に浮かんだものに、声がでる。
どおりで既視感があるわけだ! この事件、俺のトラウマ事件ナンバー2じゃん。初代金田一ドラマの蝋人形館が怖かったイメージなんだよな。納得した。ちなみに、ナンバー3は同ドラマの放課後の魔術師、ナンバー1は同ドラマの雪夜叉伝説である。あれは本気で怖かった。初代ドラマはトラウマ量産し過ぎだと思う。そう思うと、少年探偵団の面々は事件がトラウマになっていないのだから精神が図太いのか強いのか……慣れもあるんだろうが。
すっきりした、と思っていればひょっこりと現れた明智警視に捕まった。
「ヤマトくん、コレは子供がジロジロ見ていいものではありませんよ」
そんなことを言う明智警視に、まあそうだよな、普通のこどもならトラウマ死体だよな、と思いつつ、明智警視を見上げる。
「たぶん、アンダーソンさんは鉄の処女で殺されたんだ」
「――そうか、あの無数の穴は、鉄の処女を使ったからですね。盲点でした。あれなら叫んでも、外には聞こえない」
鉄の処女についていらない情報が入ったが、この際無視だ。叫んでも外に聞こえないとか怖すぎるだろ。さすが拷問器具。
「でも、なんで当麻さんの後にアンダーソンさんなんだ? 坂東さんの怯え用もおかしいし――何か隠れた共通点があるんだろうけど」
そう言って話を思い出そうとするが、思い出せない。色々とインパクトが強すぎるせいだ。怖いシーンを思い出して、ゾクリ、と震えた背筋にアキの方へ向かう。珍しく俺が裾を握ったからか、アキは首を傾げた。