蝋人形城殺人事件12


 嫌な夢を見た、と顔をしかめる。絶対トラウマ事件に巻き込まれたからに違いない。うん。二度寝しよう、と寝返りをうてばアキが机に向かっていた。物思いにふけっているようである。

「アキ?」
「ヤマト? 起きてしまったんですね」
「あー……嫌な夢見た」
「それは、あれだけ昨日アンダーソンさんの死体をみていればそうなりますよ」

 そう苦笑いしたアキに、俺はモゾリとベットから起き上がり、隣の椅子に座る。手元には、地図の覚書が合った。

「これ、この城の地図か」
「ええ」
「隠し通路でも見つけた?」
「恐らくそうであろう場所は見つけましたよ」

 アキがそう言って、指をさしたのは明智警視と当麻さんの部屋である。暖炉、とかかかれているものが、向い合っている。

「調べてないのでわかりませんが、ここが通路になってそうでしょう?」
「けど、これじゃあ明智警視が犯人みたいだぜ」
「例えば、ですよ? 当麻さん、アンダーソンさん、坂東さんが何かの事件に関わっていたとして」
「おう」
「それが法で裁けないまま、釈放されたとするでしょう? 明智さんがそれを知っている可能性は少なくない。警察ですからね。四人にミッシングリンクがありそうです」
「でも、明智警視が犯人とは限らないだろ?」
「ええ。私も、明智警視が犯人とは思ってませんよ。恐らく犯人は濡れ衣をかぶせるつもりか、命を狙うつもりなんじゃないですか」

 肩を竦めたアキに、俺も考えこむ。

「アキがいってた、マントとかの話は?」
「アレですか? ほら、マントって体型を隠すでしょう? だから、人形に成り代わってもバレないと思ったんです」
「人形に成り代わる?」
「ええ、そうすれば、全てに納得がいくんですよね。杭を打ち込まなかったのも、中に生身の人がいるからで。マントもそれを隠せますし」
「触る場合だってあるんじゃね?」
「あの時、ヤマトはどう思いました? さわろうと思いましたか?」
「――すぐに蝋人形だと思ったか、ら、……、まさか、俺達の人形の作りが荒いのは――」
「見た目で人形とわかるから、でしょうね。見た目で人形とわかれば、触らない」
「アキのいうトリックを使うなら、あの騒ぎの時、部屋から来た真木目さん、フリードリヒさん、坂東さんは無理だ」
「それどころか、坂東さんが危なそうです。坂東さんなら、もう一度同じトリックが使える」
「そうか、坂東さんの人形もマントを着て――」

 その時だ。レッドラムの声がまた響いたのは。今度は大暖炉の間、だ。外に出れば、ちょうど金田一がコチラに走ってきていた。

「どうしたんだ? 金田一!」
「明智さんだよ! 明智さんの蝋人形の首が、とれてたんだ!」
「え?」

 集まりだした周りに、アキが周りをぐるりと見渡した。
 「アレでドアを壊しましょう」と指さしたのは、大きな斧やハンマーである。金田一と南山さんがハンマーを持ち、扉を壊す。ドン、ドン、ドン、と鈍い音がなり、扉の鍵が壊れてやっと開いた。中に入れば、明智警視がベッドで横たわっているのが見えた。

「明智さん!」
「明智警視!」

 金田一が明智さんをゆすり、俺は腕から脈を取る。
 ――脈は、ある。生きてる。
 俺がほっと息を吐くのと同時に、明智さんが目を覚ましたようでゆっくりと体を起こした。だるそう、というか、低血圧なのかそういうイメージを持つ起き方である。

「ねぇ、ちょっと変じゃない? レッドラムは第三の事件が起こるって言ったのに、今回は明智さんが寝てただけなんて」

 多岐川さんの言葉に、ハッとする。
 そうだ、坂東さん――。

「坂東さんは?!」
「あ? そういえば、坂東さんだけいないぞ?」

 その言葉を聞いて駆け出す。ヤマト!? と金田一が声をかけたがこの際無視である。蝋人形の並べられた部屋へ行くと、坂東さんの人形はない。

「坂東さんの人形がない!」
「嘘だろ!? 確かに俺が通るときにはあったぞ」

 そう言った真木目さんに、アキの推測通りだと顔をしかめた。坂東さんの部屋へたどり着くと、扉を叩く。返事はない。あとから来た金田一が扉を開ければ、坂東さんの蝋人形が首を吊った状態で吊るされていた。坂東さんはいない。人形を押しのけて、俺と金田一は止まる。
 蝋人形の奥には、本物の坂東さんが首を吊ってぶら下がっていた。


「――これは」

 全員で手がかりはないかと坂東さんの部屋を探していた時である。コロンボさんは何かを見つけたらしい。何かを手にとった彼に、明智警視が「リモコン」のようですね、と告げた。コロンボさんは躊躇いもなくなにかの電源を入れる。流れだしたのは、レッドラムの自供の言葉である。
 レッドラムの正体が、坂東さんで、殺した理由は個人的な恨み。そして、つながりは大学の同級生。
 一見わかりやすい話ではあるが、犯人が本当に坂東さんならばボイスチェンジャーを使用しなくてもいいだろう。=犯人は坂東さんじゃないはずである。

「あー、くそ!」

 もっと早くにトリックがわかっていれば、坂東さんは殺されなかったのかもしれないのだ。いたたまれない気分である。