蝋人形城殺人事件13


「ちょっと明智警視のところへ行ってきますね」
「俺も行く!」

 夜のことだ。アキが明智警視のところへ行くというので、俺もついていくことにする。廊下へ出れば多岐川さんとすれ違う。アキが多岐川さんを見て、首をかしげた。それをみて多岐川さんが「どうしたの?」と首を傾げる。

「あの可愛らしい指輪、つけていらっしゃらないんですね」
「え? ええ、ちょっと汚れてしまったから外してるのよ」
「可愛いデザインで、私、好きです」
「ありがとう。でも、ごめんなさいね。貰い物だから、何処で買ったのかもわからないのよ」
「そうですか……」

 残念そうな顔をしたアキに、多岐川さんはクスリと笑う。そして、また夕飯で、と挨拶をすれば彼女は部屋に戻っていった。アキはそれを見送ると、明智警視の部屋をノックする。すると、明智警視が顔をのぞかせた。奥には金田一もいる。「アキ? どうしたんだよ?」と驚いた顔の金田一に、アキは「恐らく、なんですが、トリックがわかりました」と告げた。

「トリックが!?」
「犯人はわからないですし、トリックは仮定なんですが」
「ええ、聞かせてください」
「マントと人形の作りの粗さ、気になるって言ってたじゃないですか」
「ええ」
「アレって、犯人が人形に成り代わっていたってなると納得行くんですよね」
「犯人が人形に? どういうことだ?」
「はじめちゃんは、どうしてアンダーソンさんの人形が見つかった時、触らなかったの?」
「人形ってすぐにわかったからだろ?」
「うん、でも、はじめちゃんって、最初、玄関の蝋人形は人間かと思ったんだよね」
「? ああ」
「なるほど。犯人は人形と認識させるために、わざと私達の作りを粗くしていたんですね」

 明智警視の言葉に、アキが頷く。金田一が「どういうことだよ」とつぶやき、明智警視は「うといですよ、金田一くん」と告げた。

「アキさんが言っているのはこうです。私達があの時見た蝋人形は、本物の蝋人形なのではなく、人形に変装をした犯人だった、と」
「――そうか、なら、杭が打たれてなかったのは納得がいく」
「ええ。人形の作りが粗いのも、私達が『人形』と認識し触れないようにでしょう」
「多分、朝、真木目さんが見た『坂東さんの蝋人形』も『犯人』なんだと思います。二人の共通点はマントで覆われていることですから」
「その可能性は十分にありますね! 調べて見る価値はある。すごい発見ですよ、アキさん、貴方を連れてきてよかった」
「そんなことはないです。ほら、これってマジックに似てますから。マジックのトリックってよく、推理小説で利用されるでしょう?」

「いやぁああ!」

 いきなり聞こえた声に、ビクリと肩を跳ねさせる。「フリードリヒさんの声です」と言ったアキに全員で顔を見合わせる。外に出れば、同じく声が聞こえた美雪さんが現れ、声のした方――地下へと向かった。

 地下の拷問部屋に付けば、真木目さんと多岐川さんが鉄の処女にフリードリヒさんを閉じ込めようとしているところだった。

「何やってんだよ!」

 そう言って真木目さんの脛を蹴り、鉄の処女から離れさす。扉を開けて、フリードリヒさんを連れ出し、前に立つ。

「お遊びだよ! 本気でやるわけ無いだろ!」
「俺みたいなガキでもこんなことしちゃダメだってわかるんだ。普通、お遊びでもこんなことしねーよ。つーか、コレ――」
「フリードリヒさん、いかがされましたか?! 血が!!」

 殺人現場だっての。そう言おうとした時である、南山さんが大声を出したのは。「なんだって!? お、俺は何も――」とうろたえる真木目さんに息を吐く。コロンボさんが、フリードリヒさんの服についた血はアンダーソンさんのもので、殺人現場はここだというと顔を青ざめさせた。


「さっきのヤマトくん、かっこよかったわ」
「へ?」

 美雪さんの言葉に、固まる。かっこよかったわ? 何が? と混乱していると、アキがふふっと笑って「さっき、フリードリヒさんを庇ったことですよ」と言った。いや、アレをカッコイイと言われても。

「ケッ。俺だってあれぐらいできるっての」
「あまいですよ、はじめちゃん。ヤマトは007ごっこの達人ですから」
「007ごっこぉ?」
「ええ、この前はバスの窓を割って脱出しましたし?」
 ねぇ?

 ニコリ、と笑ったアキに、もう許してくれたと思っていたが違うらしい。目が笑ってないんだが。今回は危なくないはずなのに。真木目さんのすねを蹴ったのがだめだったか。

「窓を割って?」
「脱出?」

 そう首を傾げた幼馴染コンビに、知らなくていいよ、と苦い顔をしながら告げる。チラリと目があった明智警視が「米花の方から話は聞いてますよ」と告げる。解せぬ。誰だよ、不動署にばらした奴。目暮警部とか高木刑事とかか?
 これ以上、この話をしたくないので、話を無理やり変えることにする。

「なぁ、アキの言ってたトリックはもう確定なんだよな」
「ええ、そうですね」
「おい、話をかえんなよ」
「大人げないわよ、はじめちゃん。アキちゃんのいってたトリック?」
「後で金田一が説明するって、美雪さん。でも、なんでアンダーソンさんは拷問室で殺されて、部屋に連れて来られたんだ? 見つかる可能性もあるのに」
「それは――」

 考え込んだ金田一に、明智警視が「なににせよ、まだまだ犯人はわかりませんし、捜査するしかありませんね」と言いながら扉を開ける。その瞬間、なんともムワッとした不快な空気が出てきた。いうならば、サウナの部屋を開けた感覚である。

「うわ、なんだこれ。この部屋、熱い」
「あれ? 南山さん、どうかされたんですか?」
「あ! いえいえ! どうも換気扇が壊れてしまったようで」
「壊れた?」
「ええ、どうやら鳥が入ってしまったようです」

 そう言って烏を取り出した南山さんに、アキが「かわいそう」と告げる。

「奥にもう一匹いるようなんですが」
「換気扇を止めて外せないんですか?」
「外したんですけど、こっちに来ないんですよ。かくいう私も見えませんし」

 困ったような顔をする南山さんに、アキが近づく。南山さんで手を伸ばすのだから、アキは届かないと思う。

「ヤマトくんを肩車して、ヤマトくんが見たらどうかしら?」
「それはいい案ですね」
「ええ。それでは、手を貸して頂けますか?」

 いちいち確認をとってくれる南山さんは良い人だと思う。中からピィピィ聞こえるので、小鳥だと思うんですが、とつげた南山さんに目を輝かせてしまったのは仕方がない。犬も好きだが、鳥も好きだ。まぁ、鳥はもっぱら見る専だけど。
 肩車されてみたところには、確かにちっちゃい烏がいた。ケガをしてるのか、動けなさそうだ。気をつけてくださいね、と明智警視が言ってくれたが、どうもちっちゃい。手を伸ばせば多少はバタついたものの、結局はおとなしく俺の手の中に収まったソイツ。ちょっとかわいい。とりあえず烏をアキに渡せば、アキは「ケガをしているみたいですね」と烏をなでた。俺の時暴れたくせに、この烏なんでアキには暴れないんだ。上目遣いで見上げてんだ。なんか腹立つな。可愛いけど。

「ちょっと、アレ見て! 人形が泣いてる!」

 換気扇が一件落着すると、美雪さんが蝋人形を指さした。俺達の視線は人形へ行く。
 人形はたしかに涙を流している。駆け寄って触ってみれば、それは固い。恐らくは、蝋が溶けたものだろう。美雪さんの声に、慌てたように残りのメンバーが集ってきた。俺に続いて、金田一が触り、何かに気づいたのか走りだす。慌てて追いかける周りに対し、アキは動かない。

「アキ?」
「いや、この烏を連れて行くのは気が引けるので」

 そう苦笑いしたアキに、それもそうだよな、と烏をみる。烏は片羽をバタつかせてアキの腕から脱出をはかり――俺の肩に着地した。
 なんだこれ。見つめ合っていると、烏がカァとなき、羽をばたつかせる。か、可愛いとか思ってないんだからな!