奇術師見習いと三番目


 何時も片付けをしている私に声をかけてくるのは高遠さんを除いて三人いる。一人はヤマト。少年探偵団と一緒にいたりもするが、だいたいは一人でひょこりと現れる。もう一人は快斗くん。この前のお願い事以来忙しいみたいでバタバタとしているらしく、最近は見ないけれど。
 ――そして、もう一人。

「また大道芸で練習か?」
「……こんにちは、真田さん」

 そう、プロのマジシャンの真田さんである。
 彼は私が使っていた白い薔薇を一輪取ると、それを赤色に変える。それをくるりと回せば、それは私の胸ポケットに移動する。

「君はプロレベルなのに、もったいない」
「いえ、そんなことは、」

 そう緩やかに首を振る。彼は近くのベンチに座った。その様子は酷くくたびれているように見える。恐らく、あの九十九元康さんが亡くなり後釜と期待された彼は忙しいんだろう。心の傷が癒えないまま、彼はその忙しさに振り回されている。
 いや、忙しさで埋めようとしていたのかもしれない。あの高遠さんのように。

「……あまりご無理をしないでくださいね」
「そう見えるか?」
「いえ、表情には出ていませんよ。私の知り合いが似た状況にいたので、推測です」
「そうか。……で、アキ、考えてくれたか?」
「まだその話題続いてたんですか」
「ああ」
「だって、冗談でしょう?」

 そう困ったように笑う。真田さんは肩をすくめた。アキこそ冗談だろう、と言った彼は真面な顔で私を見る。

「本気だ」
「しかし――」
「なんなら見学に来るか?」
「でも――」
「よし、決めた。行くか」
「真田さん、ま――」
「何してんだ?」

 そう声をかけてきたのはヤマトである。探偵団と遊んだ後なんだろう。小走りで寄ってきたヤマトに助かった、と息を吐く。私と真田さんを見比べたヤマトは私と真田さんの間に入る。
 そして真田さんを見て、彼が誰であるか気がついたらしい。

「あー! 真田一三じゃんか!」
「お、坊主は俺を知ってるのか」
「一回ショー見に行った! アキ、どこで知り合ったんだよ」
「ああ――えっと――」

 困ったように笑えばヤマトはお口にチャックをした。よろしい。

「真田さん、この子はヤマト。飯塚ヤマトです。私の弟になります」
「へぇ、弟くんがいたか」
「ええ。ヤマト、こちらは真田一三さん。私の大道芸をたまに見にいらしてくれます」

 そう言ったヤマトが何か呆れたように呟いたが、よく聞こえなかった。

「で、真田さんとどこ行こうとしてたんだ? デート?」
「デ!?」
「残念ながら。アキには恋人がいるだろう? 俺の所属してる奇術団に入らないか誘ってるんだ」
「へぇ、いいじゃん」
「しかし、ヤマトを残してはいけないでしょう? それにまだ私は学生ですし」
「高校卒業後でもいいさ。ヤマトは奇術団の屋敷に興味は?」
「ある!」

 即答したヤマトに、真田さんはしてやったりという顔をした。ヤマトはどこか目をキラキラとさせている。真田さんはこの一瞬でヤマトを味方にすれば有利だと踏んだらしい。彼はアキ、と私の手を引いた。

「さて、アキ。もう一度聞こう。ヤマトと見学に来るよな?」
「……わかりました、行きましょう」

 ため息をついて頷く。こうなってしまっては、仕方がないだろう。