The third conjurer07


 偶然である。
 コナンたちと別れて家路につく俺は真田さんと出くわした。真田さん、と声をかければ大きな荷物を持った彼は振り向く。

「ヤマトか。この前ぶりだな」
「この前ぶりっす」

 そう頭を下げればグリグリと頭を撫でられる。痛い。

「何処かに行くんですか?」
「海外周り。アキにも言っといてくれ」

 なるほど。海外。でも、バタバタが終わった後すぐに海外とは。
 ……ちなみにあの後文乃ちゃんの誕生日会は行われ、俺とコナン、灰原は少年探偵団に引きずられるように参加した。プレゼントがない! と騒いでいたらアキがブリザードフラワーの花束を作ってくれたのはいい思い出である。……誕生日に花束とか、前も合わせて初めて渡した。コナンと灰原にはどこぞの気障な怪盗みたいだと言われたが、オレのセンスじゃない。まあ、文乃ちゃんが喜んでいたのでいいだろう。

「そう言えば、真田さん、あの時アキを見下ろして首を傾げたけど、あれは何で?」

 疑問だったことを聞いてみる。真田さんはいつだったか思い出したようで、ああ、あの時、と口を開いた。

「アキは香水をつけていたかと思っただけだ。仄かに香るくらいだったし、気のせいかなと」

 そう告げた真田さんの前に車が止まり、中からは文乃ちゃん(パーティーでそう呼ぶことになってしまった)が顔を出し、その後ろからさとみさんが顔を出した。どうやら彼女も海外へ行くらしい。

「ヤマトくんだ!」
「おー、文乃ちゃんも今から海外?」
「うん! お土産買ってくるね!」
「サンキュー」

 そうニコニコと邪気のない笑顔で言われてしまうと照れるものがある。それを見てさとみさんが「この前の花束も持って行くんだよね〜」と告げ、また文乃ちゃんが元気よく肯定した。それを聞いて、真田さんが噴き出す。

「お前か……あの薔薇の花束……文乃の王子様」

 その言葉に、文乃ちゃんが怒ったように車を叩いた。
 王子様? は? 俺がか?
 そう首を傾げていれば、そろそろ出ないと間に合わないと百地さんが告げ、真田さんが車に乗り込む。文乃ちゃんがバシバシと真田さんを叩いていた。文乃ちゃん強え。日本有数のマジシャンを殴ってる。強い。まぁ、九十九さんに怒られていたが。

「じゃあね、ヤマトくん! また今度!」
「おー、風邪引くなよ、気をつけて。いいフライトを」

 言葉を羅列してそうつけると、車は走り出す。とりあえず見えなくなるまで手を振れば不意に後ろに気配を感じた。

「可愛いらしい彼女ですね、ヤマトくん」
「その、声は!」

 そう勢いよく振り向くと、高遠が立っていた。例の遠山バージョンである。

「帰ってくんなし! た……遠山!」
「酷いですね。アキには帰ってこいと言われたのですが」
「ぐう」

 余裕綽々に俺の隣に並んだ高遠は、帰りましょうか、と俺に声をかける。誰がこんな奴と! と思ったが帰り道は一緒のわけで。ため息をついて、帰り道を進んだ。そのとき香った仄かな薔薇の匂いに顔をしかめる。

「アキにいつあったんだ?」
「この間、路地裏でね」

 と、いうことは真田さんが気付いた匂いは高遠の匂いになる。……それ以上の想像はやめた。

「この間と言えば、三好麻子さんの知り合いなのか?」

 そう尋れば、高遠は「マジシャンの友人ですよ」と口を開く。

「いえ、だった、でしょうか」
「……浮気か」
「違いますよ。まぁ、確かに彼女には好意を抱かれていた可能性はありますが――まぁ、彼女なアレは兄に向ける感情に近い」

 そう淡々と告げた高遠にやっぱり疑ってしまうのは仕方ない。

「お前、唆してないよな?」
「ええ、してませんよ。助言2度ほどしましたけど」
「はぁ?」

 俺の言葉に、高遠は口を開く。

「犯行やトリックの助言は一度だけです」
「他は?」
「彼女、関係のない子供まで殺めようとしてましたからね。その関係の話ですよ」

 そう飄々と告げた高遠に、思考が止まる。こいつ、今、なんて言った? 犯罪者あるまじき言葉じゃないか?

「子供まで殺してしまえば、それは復讐ではありませんよ。あの子は何もしていない。私にだってそれなりのセオリーがあるんです」
「三好さんを手にかけなかったのは?」
「彼女はマリオネットではありませんから」
「なーんかしっくりこねぇ。高遠的に捕まってよかったのかよ?」
「幕引きとしては美しくはありせんね」

 そう肩をすくめて見せた高遠は慣れたように俺の家の扉を開ける。扉を開けた先にいたアキは、にこりと笑って「おかえりなさい」と告げた。


 ――あの時何故高遠がはぐらかすようにそう告げたのか。
 ――どうして高遠は彼女が捕まることを良しとしたのか。
 俺がそれを理解するのはまだまだ先の事だ。