魔術列車殺人事件01
「アキ、最近大丈夫かよ?」
放課後にちょっといいか、とはじめちゃんと美雪ちゃんに呼びかけられた。そういえば、最近、二人と放課後に出かけていないことに気づき、一緒に喫茶店にいくことになった。どうやらそこで、剣持警部と待ち合わせをしているらしい。そこに行く途中のことだ。はじめちゃんがそう切り出したのは。
「そうですよ、飯塚先輩、最近元気ないですよね?」
「ちょっと、嫌なことがあったんだ、大丈夫だから、気にしないで」
「アキちゃんが嫌なことがあるって、珍しいね。本当に大丈夫?」
「ええ」
ふにゃりと笑う。大丈夫ではない、だなんてことは自分が一番わかっている。でも、二人や佐木くんを心配させたくないのだ。だって、原因は三人の知らないことで、それを心配してもらうなんてお門違いに違いないからである。
「嫌なことがあった、ってヤマトがなんかしたのか?」
「いや、ヤマトは関係はないよ。ヤマトは今日も昨日もいい子だよ?」
「あいつがぁ?」
はじめちゃんの表情に笑ってしまう。はじめちゃんはヤマトに対していつもこんな反応をとるが、それでも「お兄さん」のように気にかけてくれているのを知っているからだ。私の表情を見て、はじめちゃんと美雪ちゃんはホッとしたような表情を見せた。なんだろうか、首を傾げる。というか、佐木くんはカメラを回すのをやめてほしい。どこか恥ずかしいし。
「お、着いたようだぜ?」
とりあえず、待ち合わせの喫茶店で剣持警部を待つ。テストのことだとか、文化祭のことだとか、そんなくだらないことを話していれば、剣持警部がやって来た。
「またまた大所帯できたな? 金田一」
「うるせーよ、で、なんのようだ?」
席に座った剣持警部曰く、脅迫状在中と書かれた箱が警視庁に送られて来たが、肝心な箱があかないらしい。どうやらからくり箱であるようで、特殊な捜査班によっても開かなかったとか。はじめちゃんがくるくるまわしてみたが、すこしも開きそうもない。
「なぁ、アキはなんかわからねーか?」
そういってパスされた箱を注意深くみる。何処かでみたことがある箱だ。少し考えを巡らせて、行きついた考えに、成る程、と一人納得していれば四人が此方をじっとみていることに気づいた。そんなにじっと見なくても。
「……種も仕掛けもありません」
そう言った瞬間、一瞬頭を過った存在に顔を振る。それを消すように箱を手に持って、箱を開いた。ただ、何かが引っかかってしまっているため、少ししか開かないが。
「な、どうやって開けたんだ!?」
「マジックのトリックの一つですよ」
「へぇ、アキちゃんの得意分野だったのね」
「飯塚の得意分野?」
「あぁ、アキはこう見えてマジシャン並みにマジック上手いんだぜ!」
そう言って無邪気に笑ったはじめちゃんに、ちくん、と胸が痛くなる。自分のマジックはあの人に教わったもので、あの人との思い出=マジックなのだ。だから、距離を置きたかったのに。とりあえず、はじめちゃんの言葉を愛想笑いでやり過ごし、「何かが引っかかっているみたいです」と告げてはじめちゃんにまたパスする。はじめちゃんがどうにか引っかかっているものを取り出した。――糸で雁字搦めになってしまったマリオネットを。
「マリオ、ネット」
今回、またはじめちゃんは事件に巻き込まれるのだろう、と予想を立てる。現に、箱の底には犯行予告が書かれていた。とても、嫌な予感がする。それに、あの人を思い起こさせるものの連鎖だ。頭の中にまた浮かんで来たあの人に、泣きたくなってくる。私が、何かしたんだろうか、とか、他に好きな人ができたのだろうか、とか、自分にはわからないことが頭の中に渦巻いては消えることなく留まる。でも、それを答える人はもういなくなってしまっていて。もう、あの人はそばにはいないのだと、理解、しているのにな、と自嘲してしまった。
「ーー、おい、アキ、聞いてんのか?」
「ご、ごめん、ちょっと考え事してた……」
「だから、魔術列車で北海道まで行くって話だよ」
「ヤマトを一人にはできないし、やめとくよ」
「ヤマト?」
「ああ、そういえば、剣持のおっさんは会ったことなかったっけ?」
「ああ、」
「ヤマトくんはアキちゃんの弟ですよ」
「親に任せられないのか?」
剣持警部の言葉に首を横に振る。あいにく、親は年に一度帰ってこればいいほうだ。しかし、それを伝えれば児童相談所に通告されるような気がする。そして、私達の親に対しきっと怒ってくれるだろう。そういう人だ。剣持警部は。
魔術、という単語が出てくるということはマジックが関わっているのだろう。だから、余計に、行けない。行きたくない。
「親は海外出張中なんです。弟はまだ小学一年生だし……」
「なら、仕方が無いな」
剣持警部の言葉にホッと息を吐く。どうやら、諦めてくれたらしい。
「その弟の分までチケットを取るか」
「え?」
「さっすがおっさん、太っ腹!魔術となれば、アキの意見も参考になるしな!」
そういって話が弾むはじめちゃん達とは裏腹に、私は固まる。行くことになってしまった。本当に、今は、マジックから距離を置きたかったのに。