とある朝の食卓風景


 今、新聞紙というよりも日本を賑わす怪盗は二人いる。
かたや、絵画のモチーフを盗み出すという怪盗。かたや、大きな宝石を盗んでは持ち主に返す怪盗。違う言い方をすると、絵画をよく狙う二十面相のような愉快犯と大きな宝石をよく狙うロビンフッドのような義賊。
 今日の新聞を賑わすのはどうやら後者らしい。高遠さんが開いた新聞紙を前から眺める。
 ――朝食中だ。
 ヤマトは寝ぼけ目でパンを口に運び、高遠さんはいつものようにコーヒーに口をつける。まるで家族のようなそれに、笑みを浮かべてしまった。このまま緩やかな時が流れては欲しいが、実際問題そうはいかない。いずれはこの時間はなくなるのだろう、と思う。今のうちに幸せを噛みしめるように私はパンを口に運んだ。

「また怪盗キッドが現れるようですね」

 パタン、と新聞紙を閉じた高遠さんに私はヤマトのコップにジュースを注ぎつつ彼を見た。ヤマトは私にお礼を言い、寝ぼけ目で高遠さんを見る。おそらく夜更かししたんだろう。最近難しい本を片手によく唸っているのをよく見るが、今に始まったことではないから気にしない。ヤマトは年の割にかなり賢い子である。それは恐らく、コナンくんにも言えることだろうけども。

「そうなんですか?」
「ええ、鈴木財閥の持つインペリアル・イースター・エッグというものを盗むそうですよ」
「インペリアル・イースター・エッグ……」

 ヤマトが「また園子嬢の家か」とぼやき、私は高遠さんの言葉を反復する。インペリアル・イースター・エッグ――メモリーズ・エッグ。確か、ロシア皇帝が残したとされるイースター・エッグに似たソレだったはずである。私が快斗くんに頼まれて調べたそれだ。おや? と首をかしげれば、高遠さんが私を見た。

「どうかしましたか? アキ」
「いえ、知り合いにインペリアル・イースター・エッグを調べるように頼まれていたので」

 私の言葉にヤマトは目を瞬き、高遠さんは面白そうに「この前の公園の少年ですか?」と尋ねる。頷いた私に、彼は目を細めた。
 そんな時である。私の携帯が着信を告げたのは。噂をすればなんとやら、というのか、着信は園子ちゃんからで。私は二人に断って電話を取った。

「はい?」
「もしもし? アキちゃん?」
「うん、そうだよ」
「久しぶりー! 元気にしてた?」
「うん、園子ちゃんは?」

 そこからぽんぽんと蘭ちゃんがどうだとか、恋人がどうだとか言う彼女に笑みを浮かべる。蘭ちゃんも園子ちゃんも周りにいないタイプである。はじめちゃんや美雪ちゃん、村上くんたちとは少し違うタイプで――活発というか、なんというか。微笑ましい『友人』だ。
 一通り園子ちゃんの言葉を聞いた後、要件は? と切り出してみる。後ろでは、高遠さんが食器を片付ける音と、ヤマトが学校の準備をする音――ランドセルに教科書を詰める音が聞こえる。園子ちゃんの話を聞くのは楽しいが、高遠さんに片付けをまかせるのは申し訳ないし、ヤマトの連絡帳をまだ確認していなかったはずだ。

「そうそう、アキちゃん、大阪来ない?」
「大阪?」

 私の言葉に、高遠さんとヤマトの目がこちらに向いた。

「そうそう! キッド様に会いにいかない? 遠山さんとヤマトくん連れて! 蘭達もいるし!」
「でも、警察の方の邪魔じゃ……」
「いいのよー、別に! 警察よりアキちゃんや遠山さんの方が役に立つっていうか、ね!?」
「ちょっと確認してみるね」

 そう園子ちゃんに告げて、各々作業をする二人を見る。高遠さんがヤマトの連絡帳を眺めてサインした。

「園子さんが、大阪にキッドに会いに来ないかと」
「行く!」

 そう声を上げたヤマトから高遠さんに目を向ける。

「おや、私も、ですか?」
「はい。遠山さんも、と」
「では、行きましょうか。しばらく仕事もありませんし」

 そう肩をすくめた彼に、ヤマトが彼を睨んだのが見えた。高遠さんは「マジックの仕事ですよ」とだけ告げる。いろんな意味で安心できねーよ! っと食いかかったヤマトから目を離し、また園子ちゃんの電話に答える。

「どうやら二人とも乗り気みたい」
「やった!」

 園子ちゃんはそう言って、私に集合場所などを告げて、お互いに学校だからと電話を切った。高遠さんを未だに睨むヤマトを少し怒って、時計を見る。もうそろそろ、準備をしないと遅れる時間だ。

「アキ、片付けは私がしておきます。準備しなさい」
「でも、」
「衣食住を提供してもらっているお礼ですよ」

 彼はそう告げて私の頭を撫でた。近づいてきた顔に、わわ、っと目を伏せる。リップ音とともに額にキスをされ、ほら、と彼は私に準備を促した。

「リアじゅ……高遠爆発しろ」
「爆破殺人ですか。美しくないですね。しかし、炎からの脱出は面白そうだ」

 彼の言葉にヤマトは「そう言う意味じゃねーよ」と彼につっかかる。おや、ならどういう意味なんでしょうか、と高遠さんにヤマトが思いっきり顔をしかめた。仲が良さそうで、何より、である。