狙撃手の名は蠍
大阪に来たのは初めてのような気がする。
そう思いながら、帽子のつばを上げて、ぐるりと辺りを見渡した。
大阪駅は迷子になりそうなほど広いというか、色々なデパートとつながっているため何処が指定された出口なのやら迷っていたが、高遠さんは把握しているらしい。ヤマトとは逆の私の手を引いて、ロータリーのある場所まで連れ出された。
「あ! いたいた! アキちゃーん!」
そう声が聞こえて、後ろを見れば蘭ちゃんと毛利探偵、コナン君がいた。駆け寄ってきてくれた彼女は「久しぶりだね!」と笑う。その笑顔が眩しい。後からやってきた毛利探偵とコナン君に挨拶すれば、毛利探偵からは「お前らも来るのか……警察の邪魔はするなよ」と告げた。あの伊達眼鏡にいつもとは違う服、いつもとは違うように髪を整えた高遠さんが「ええ、わかってます」と肩をすくめた。
それからすぐ、園子ちゃんが迎えに来る。どうやら大きなリムジンで迎えに来てくれたらしい。みんなで乗り込んだ。
「さっすが鈴木財閥。リムジンか」
そう告げた毛利探偵に、園子ちゃんは「特別な日なんですもの」と告げる。憧れの怪盗キッドに会えるからだそうだ。その言葉に、毛利探偵とヤマトが顔をしかめるのがわかった。高遠さんはそれを聞いてクスリと笑う。私も少しおかしくてクスリと笑えば、園子ちゃんが首をかしげた。
「いえ、園子ちゃんは怪盗キッドが大好きなんだなぁって」
私の言葉に大きく頷いた園子ちゃんに、可愛らしいなぁ、と思う。彼女は本当にキッドが大好きだ。彼女と出会ったときから変わらないソレ。でも恋人は別にいると言うんだから驚きである。憧れと恋はちがうのよ! とは前に彼女が語っていたことだ。
「あ、そうそう! 運転してくれているのはパパの秘書の西野さんよ!」
「どうも」
そう運転席から返事をした彼に、園子ちゃんが続ける。優しそうなメガネをつけた男性だ。
「彼はずっと海外を旅していて、英語、フランス語、ドイツ語がペラペラなんだよ」
「へぇ、すごーい」
蘭ちゃんの言葉に、私も笑みを浮かべる。高遠さんもなかなか語学力が高いから感覚が麻痺するけれど、普通に考えるとすごいことだ。
町中を疾走するリムジンに揺られながら、窓の外を見る。隣にいる高遠さんもあまり大阪に来たことがないのか窓の外を見つめていた。そこから園子ちゃんや蘭ちゃんと会話したり、高遠さんと話したりする。
しばらくすると建物に入る。近代的な建物は美術館のようだ。ただ、機動隊というのか、警察が沢山いる。高遠さんをちらりと見るが彼は涼しい顔をしていた。この前の親と会った時のホテルもそうだが、管轄が違うからなのか、彼は不動署に関係する人には察されやすいが他はそうでもないらしい。明智警視とはじめちゃんが敏感すぎるんだろう。
「凄い警戒ね」
「まさに蟻も這い出る隙もないって感じだな」
「まぁ、怪盗キッドに対すると考えれば妥当でしょうね」
「そうそう、相手は怪盗キッドさま。なんたって彼は――」
「神出鬼没で変幻自在の怪盗紳士。かたい警備もごっつい金庫もその奇術まがいの早業でぶち破る。おまけに顔どころか声から性格まで完璧に模写してしまう変装の名人ときとる」
園子ちゃんの言葉を遮り、そう告げたのはフルフェイスのヘルメットをつけた青年だ。その後ろには同じくフルフェイスのヘルメットをつけた女の子がいる。生の関西弁である。
「へっ、ほんまに。めんどくさい奴を敵につけたのう」
工藤、ヤマト。
そう言ってヘルメットを外した二人組。工藤? と首を傾げれば、毛利探偵が顔をしかめた。ヤマトが、あ、と声を出したのがわかる。知り合いのようだ。そう言えば、この前大阪にお邪魔したと聞いていたし、その時に会った人なのかもしれない。
「またコイツかぁ」
「もう! なんで服部くんはいつもコナン君の事を工藤って呼ぶの?」
「ははは、すまんなぁ。こいつの目の付け所が工藤によう似とるから、つい、そない呼んでしまうんや」
「ほんまアホみたい。今日も工藤がくる工藤がくるゆうて、いっぺん病院で見てもろたほうがええんちゃう?」
そう告げた女の子をよそに、ヤマトを見る。ヤマトもこちらを見上げて、この前大阪で世話になった人だと告げた。それは挨拶しないとな、と思っていれば、二人は口喧嘩を始める。それに困っていれば、ヤマトが私の手を取って、二人に近づいた。高遠さんも一歩下がって付いてくる。
「平次さん、和葉さん」
「おっ! ヤマト。元気そうやな」
「ヤマトくん相変わらずやね!」
「おー、二人も相変わらずで何より。アキ、こっちが西の高校生探偵、服部平次さん。で、こっちが幼馴染の遠山和葉さん」
「この前は、弟がお世話になりました」
ヤマトの言葉に礼をする。二人は目を瞬いてこちらを見た。
「弟、ってことは、ヤマトのねーちゃんか? えらいべっぴんやな」
「わー! 可愛い!! あたし、遠山和葉いうねん! 和葉って呼んで!」
「俺はさっきヤマトから紹介された通り、服部平次や。よろしゅう」
「和葉ちゃんに、服部くん、だね。私は飯塚アキです。よろしく」
二人の紹介にそう笑って答える。
「で、アキの後ろにいんのが遠山遙治」
不機嫌そうに告げたヤマトに、コラ、と怒る。高遠さんはニコリと人好きな笑みを浮かべた。
「アキの恋人の遠山遙治です。そちらの遠山さんと苗字が一緒なので、お好きにお呼びください」
恋人、と、さらりと告げた高遠さんに少し顔が赤くなるのがわたる。確かに和葉ちゃんと同じ苗字だ。偽名だけれど。
恋人? と首をかしげた二人に、えっと、あの、と言おうとすれば、園子ちゃんが口を開いた。
「遠山さんはアキちゃんのボディーガードで恋人なの! 凶悪犯から守ってくれてるんだって! 素敵じゃない?」
その声に視線を下に下げる。ほぉ、と服部くんは高遠さんを見た。
「なんか、なよなよしてそうやけどこんなんがボディーガードで大丈夫なんか?」
その言葉に、高遠さんが苦笑いする。毛利探偵がひっそりと賛同していた。 まぁ、その凶悪犯本人がボディーガードだとは誰も気づかないんだろう。現に二人はきづいていないし、それは米花に関わる皆にも言えることだ。そのまま流れに身を任せて室内へ入る。美術館、とすこしワクワクしてしまうのはしかたないだろう。