狙撃手の名は蠍
会長室へ向かう間、目の前を行く高遠とアキを見つめる。すぐ横に飾ってある美術品を時々眺めては何か会話をする二人に、平次さんが口を開く。
「なんかあの遠山さんってどっかで見たことあるような……」
おい。周りなんで見破れないんだとか思ってたけど、意外なところに伏兵がいた。平次さんの言葉に、和葉さんが「ヤマトくんに前写真かなんか見せてもらってへんかった?」と告げる。そこで納得した平次さんに息を吐いた。
あれ? なんで安心してんだ? 俺。安心するべきことじゃないだろ、と複雑になりながら周りに続く。
ついたそこは会長室だ。中には髪をくくった日本人の男性、少し白髪がかった日本人の男性、外国人の女性、そして大柄な外国人の男性と鈴木会長がいる。大柄な男性はともかく、他は警察関係者には見えない。なんだ? と思っていれば、鈴木会長が立ち上がり毛利探偵に近づいた。
「おお! これは毛利さん! 遠いところによくおいでになりました!」
そう告げた鈴木会長は、蘭さんやコナンだけでなく、俺やアキ、高遠にも挨拶をする。人がいい人だ。
「ええっと、園子。そちらの二人は?」
「服部平次くんと遠山和葉さんよ、パパ。平次くんは西の高校生探偵って呼ばれていて、関西じゃ有名だってさ」
そう告げた園子嬢に、俺は再度高遠を見る。高遠は平次さんをみてどこか納得したような表情を浮かべている。さっきの会話を聞いていたのかもしれない。
「それはそれは、頼りにしてますよ」
「おう、まかしといて、おっちゃん!」
「お前な! 鈴木財閥の会長にむかっておっちゃんとは!」
そう怒った毛利探偵を鈴木会長がなだめる。会長はこちらを向く。
「それにしても、遠山さんは親戚か何かなんですか?」
「いえ? 偶然ですよ」
そう笑みを浮かべて首を左右に振った高遠に、偽名だからなと思う。原作じゃ赤尾って言う名前が印象的すぎるけども、遠山も確かなにかで使ってる名前なんだよな。高遠は首をかしげてそのまま話を変えるように奥の四人を見る。
「鈴木会長、彼らは?」
「ああ、そうだった、紹介しますよ」
鈴木会長はそういって、まず大柄な外国人の男性に手を向ける。
「こちらはロシア大使館の一等書記官、セルゲイ・オフチンニコフさんです」
男性――オフチンニコフさんは立ち上がり「よろしく」とつげた。デカイ。というか、大使館?
そう目を瞬いていれば、アキが小声で「インペリアル・イースター・エッグはロシア皇帝の遺産かもしれませんから」と教えてくれた。なるほど、自分の国の文化的な価値があるものだから大使館が動いているらしい。それにしても大柄である。元軍人か何かじゃないだろうか。
「お隣は、早くも商談でいらした美術商の乾将一さん」
軽く頭を下げた少し白髪がかった男性は小さく目礼をする。それと同時に女性が立ち上がった。
「彼女はロマノフ王朝研究家の浦思青蘭さん」
「ニーハオ」
小さく挨拶をした女性は中国あたりの人なんだろうか。目の色はグレーだからか、アジア系というイメージはあまり思いつかない。
「そしてこちらはエッグの取材撮影を申し込んでこられた、フリーの映像作家、寒川竜さん」
「よろしく」
最後の男性はそう言ってカメラを毛利探偵に向ける。
「しかし、商談ってどれくれいの値を」
「八億だよ」
そう答えたのは乾さんだ。毛利探偵が八億!? と目を白黒とさせる。それだけ、歴史的価値も美術的な価値も高いものなんだろう。
譲ってくれるならもっと出してもいい、といった乾さんにオフチンニコフさんが食らいつくように元々ロシアのものです! と告げた。そりゃあ、国の人からすればそうなるよな。ただでさえ美術品は盗まれたり、略奪されたりという形が多いのだから。オフチンニコフさんの得体のしれぬ美術商、と言う言葉に、乾さんが今度は食らいつく。うん、俺も確かに、美術商ってあんまりいいイメージはない。小説や映画のせいかもしれないけど。
「いーよいーよ、こりゃあエッグ取るより人間取るほうが面白いかもしれないな」
そう告げた寒川さんは立ち上がる。まあ、人によるだろうけど、一種のドキュメンタリーにはなるかもしれない。いろんな欲が建前との間で見え隠れしている様は面白いと思う人には面白いんだろう。俺やアキは苦手だけど。
というか、こういう人はあんまり好きじゃない。寒川さんは浦思さんに畳み掛けるように声をかけ、浦思さんは「八億なんてお金はとても」という返答をした。
「だよなぁ、俺もかき集めても二億がやっとだ」
って、お前も狙ってんのかい。
呆れたような目で寒川さんを見てしまうのはしかたがない。このまま譲ってもいいと思えるのは研究という目的を持つ浦思さんとロシア大使館の一員であるオフチンニコフさんぐらいだろう。
――でも、キッドが狙っているのなら。
そう、「持ち主に返す」という義賊的な彼にメモリーズ・エッグが狙われているのなら、それは別に持つべき人がいるということだ。
「――あ」
そう小さくつぶやく。これ、知ってるぞ。犯人までは覚えてないが。
となりにいたアキがこちらを見て首を傾げたが、気にしない。
そのまま、鈴木会長の後日を促す言葉に全員が引き下がる。それと同時に西田さんが何か箱を持ってくる。そして、寒川さんが西田さんを見て驚いたように肩を跳ね上げていた。
なんだ? と思っていれば、高遠が小さく「知り合いですかね」とアキにつぶやくのが聞こえた。