狙撃手の名は蠍
机に促されて、ソファに座る。鈴木会長が紫色の組紐を解いて開けた。
中から現れたのはエメラルドグリーンと美しい装飾が施された卵型のものだ。俺の想像ではイースター・エッグ――まんま卵の大きさのものを想像していたから、想像よりもずっと大きい。
それぞれが覗き込むようにメモリーズ・エッグ――正しくはインペリアル・イースター・エッグを見下ろす。感嘆の声が上がった。
「なんか思ってたよりぱっとせえへんな」
平次さんの言葉に、和葉さんが「ダチョウの卵みたいやね」と返す。ダチョウの卵って。俺はもう少し近づいてソレを見た。うん、綺麗な塗装だし、細工も細かい。
「これ、開くんでしょ?」
今まで黙っていたコナンが鈴木会長にそう声をかける。
「そうなんだよ、よくわかったね!」
そう告げた鈴木会長はエッグを開ける。中からは家族と思わしき集団が何か本を覗いている金色の模型が入っていた。
「中はニコライ皇帝一家の模型でね、全部金でできているんだよ」
「こりゃあ中々のもんやな!」
「――この模型の位置からして、何か仕掛けがあるのでは?」
高遠がそういってソレを見る。
「仕掛け?」
「金の模型だけを魅せるのであれば、模型をこんなに奥に配置する必要はないでしょう?」
高遠の言葉はもっともである。確かに、模型だけを魅せるのであれば、この位置にあるのは不自然である。鈴木会長は笑って「そうなんだよ」と鍵を取り出した。
「コレには面白い仕掛けがあってね」
そう告げた鈴木会長は鍵を差し込み、回した。金色の模型は徐々に上に上がり、そして真ん中の男性が本を開く。
「精密にできたからくりですね」
アキはそう言って目を瞬いた。たしかに、時代は約100年前、日清戦争前後のものだろう。当時にこの技術、と思ったらスゴイと思う。まだ電子化もなにもない、殆どが歯車と手作業で作られたそれである。
鈴木会長が言うに、どうやらデザイン画が残っており、本物と断定されたらしい。それまでは幼い園子嬢のおもちゃになっていた……って、純金でできた模型入りの卵をおもちゃにするって園子嬢強いな。さすが金持ちというか。
エッグから目を離しデザイン画をもう一度見た。デザイン画の上に書かれた文字はロシア語だろうか。
「B……ボ?」
「ボスコミナーニャ。日本語訳で『想い出』ですよ」
俺のつぶやきに、高遠が答える。同じ事を鈴木会長が答えたため正しいんだろう。本を捲ることが想い出。本を読み聞かせることが想い出。正しくは捲っているものはアルバムだった気がするし、他に何か仕掛けもあった気がするがイマイチ思い出せない。話をする周りから少し外れるように、アキが高遠に声をかけた。
「きれいですね」
「ええ、そうですね。装飾も中もこっている。しかし、アレだけとは考えにくい。個人的にはオルゴールかと思ったんですが」
そう呟いた高遠に確かになかの模型が動くだけじゃな、と思う。イヤ、それでも精密であるし、すごいんだけども。
「あの裏にあるのは宝石か?」
「いいえ、恐らくは違いそうですよ。たしかこの頃のロシアは財政難のはず……ですが、まあ、中が金なのを見るとなんともいえませんね」
俺の言葉に肩をすくめてみせた高遠は、怪盗キッドの予告に話題を移した平次さんを見た。
「光る天の楼閣――なんで大阪城が光るんや?」
平次さんの言葉に、和葉さんが「アホ」といって太閤――豊臣秀吉が大阪にとって光のようだからと告げる。それに頷くように、入り口から見知った刑事さんと中森警部が現れる。うん、怪盗キッドといえばこの人だよな。
光る点の楼閣が大阪城であるのは間違いない、とつげた刑事さんにアキが首を傾げる。ん? とおもってアキを見るが、そレを尋ねる前に中森警部が話をすすめた。
「だが、秒針のない時計が12番めの文字を刻む時。コレの意味がどうしてもわからんのだ」
「それって平仮名の12番めの文字とちゃうん?」
その発想は予想外だったらしい。大人が驚いた。平仮名の12番めは「し」だ。でも、「し」だと文字盤云々ができない。その点、毛利探偵の言っていたLのほうが納得がいく。しかし、なんかピンとこないそれである。それはコナンは同じらしい。隣を見れば、コナンは考え込む顔をしていた。