狙撃手の名は蠍
――師匠を連れて行ってもいい?
そう打ち込めば、少し迷ったような返答が来た。どうしたものか、と高遠さんをみあげる。高遠さんは首を傾げるだけだ。そして、少し眉尻を彼は下げた。
「浮気ですか?」
「違います!」
そう即座に返答をする。ヤマトはなんとかかわした――それでも不思議そうにしていたけれど――が、目の前の高遠さんはそうはいかない。彼は冗談ですよ、と笑う。
「この前の高校生と会うのでしょう?」
「覚えてるんですか?」
「貴方を迎えに公園に行けば会いますからね。それに彼は――」
そこで高遠さんは言葉を止める。
そう、そこだ。彼の家族――父親の話。彼の父親の没年日と前の怪盗キッドが消息を絶った日。そして、新しい怪盗キッド。今回の話。全てを考えれば、彼――黒羽快斗くん=怪盗キッドになるのである。今回、大阪にもいるらしいし。ますます怪しいそれだ。
連れてきてほしくないみたいだし、どうしたものか、と思っていれば、高遠さんの携帯が音を立てた。どうやら着信音の長さからして電話らしい。高遠さんは携帯電話を見て、私を見る。
「私も仕事の連絡が入りました。一時間後に通天閣でおちあいましょうか」
「えっと」
通天閣の位置がわからない、と困ったようにいえば、高遠さんは私のスマートフォンの地図アプリを起動して場所を登録してくれる。そこまで距離はなさそうである。そもそも、快斗くんとの待ち合わせ場所も通天閣だ。
「これで大丈夫でしょう?」
「はい、」
「では、一時間後に」
そう頭をくしゃりと撫でた高遠さんは、長い間放っていた携帯にやっとでた。もしもし? とつげたトーンはいつもの声のトーンである。おそごとの方の電話らしい。
ひらり、と笑って手を振った高遠さんにこちらも手を振って別れる。目指すは通天閣である。
「あれ? お師匠さんは?」
たどり着いた通天閣の下、そこにいた快斗君は首を傾げる。向こうも仕事の電話が入ったみたい、といえば納得したようだ。そのまま通天閣を見上げる。
「通天閣っておもったより低いね」
「まあ、東京タワーの約三分の一だからなぁ」
通天閣は東京タワーに似た構造をしている。楼閣――と言っても差し支えないだろう。通天閣や学校などなど色んな話をしつつ展望デッキに上がると、周辺が一望できた。それなりの高さがある証拠だ。
「ってか、なんでアキとお師匠さんが大阪に?」
「ああ、鈴木財閥のお嬢様と友達なんだけどね、その子が怪盗キッドに会いにこないかって言って……弟が行きたいって」
そう言って快斗くんをみる。快斗くんは「へえ」と呟いた。
「弟は怪盗キッドに会いたいみたいなの。前の同好会のときも近くで会えなかったし、その次の大海の奇跡のときもコナンくんっていう弟の友達に譲っちゃったし。だから、会ってあげてくれないかな?」
「あのボウズの近くにいる青い目のやつがアキの弟って……え?」
目を瞬いた快斗くんに私はニコニコと笑う。
「だから、あってあげてくれないかな? 怪盗キッドさん?」
「アキ、何言って?」
「それなりに確信はあるんだけどね」
周りは恐らくこの会話は聞いてないだろう。お互いの会話に夢中だ。快斗くんが確信? と首をかしげる。
「まぁ、いいよ。なかったことにしよう」
「よくない。全体的に俺が良くない」
「通報しないよ?」
「濡れ衣着せられたままは、俺がよくない」
そう言った快斗君にクスクスと笑う。不服そうに「なんでそう思うんだよ」とつげた快斗君はヤマトに似ている。
「快斗くんのお父さん」
「それが?」
「この前の事件でキッドに興味を持って調べてたら、快斗くんのお父さん――日本はともかく海外では黒羽盗一が行った先で怪盗キッドが現れてた。で、彼がなくなってキッドは消息を絶った」
「……」
「でも、最近、また現れた。彼と会った時、彼はそんなに年を取って見えなかった。もちろん、変装かもしれなけどね。彼は変装の名人だから。でも、一つの目の仮定、黒羽盗一=怪盗キッドだとしたら彼は年を取ってなくて正解。なぜなら、彼はもうこの世にいない――即ち、いま暗躍する怪盗キッドは『二代目』だから。恐らく継いだ理由は何処かで彼がそうだと気づいてしまった人、志を継いだ人、もしくは継ぐしかなかった人、そうなることで彼の死因の真実を探している人――つまり、正体に気づいてしまった近しい人。ソレを全部ひっくるめて快斗くんかなって」
私はそう言って景色を眺める。窓ガラスに映る快斗くんはいささか真剣な目で私を見ている。雰囲気を崩す為に肩を竦めた。
「まあ、これも快斗くんしか黒羽盗一さんに近かった人を知らないから言えることですし、そもそもひどい勘違いかもしれませんし。でも、快斗くんがメモリーズ・エッグに興味を持ったのも偶然でしょうし」
「――俺がキッドだっていったらどうする?」
「どうもしません。そこに貴方の意志があるなら私は否定はできません」
「怪盗キッドは『犯罪者』なのに?」
その言葉に言葉をつまらす。確かに犯罪者、だ。怪盗キッドは。でも、ソレを言ってしまえば、高遠さんのほうが重罪人だろう。私は自嘲を浮かべた。「今更です」と口はかってに動く。
そう、今更だ。自分は確かに高遠さん側に近づきつつあるし、彼を家に匿っている。だから、犯罪者と一緒にいることに対しては、そうとしか言えない。そのままああいけない、と彼を見る。違うんだ、と首を振った。
「快斗くんは友達だから、」
――高遠さんは、恋人だから、
「力になれるなら、なってあげたいとは思うよ」
――力になれるなら、なってあげたいんです。
結局は同じなんだろう。随分彼に侵入を許したものだな、と思う。でも、彼はヤマトやはじめちゃんと似ているし、何より共通の話題があるのだから仕方のないことだ。でも、ソレ以上は許してはいけない。ソレは彼は純白で私が黒に染まりつつあるからだ。
「アキには敵わねえなぁ」
そう笑った快斗くんは何処か楽しげで、嬉しげだった。
「でも、俺は怪盗キッドじゃないからな!」
はっきりと言った快斗くんに「そっか」と私も笑う。彼が隠す気でいるならそれでいいだろう。それに合わせて私は行動すればいいのだから。
「なら、怪盗キッドの予告文一緒に考えない?」
「え?」
でも、彼を誂うくらいは許して欲しいところだ。