狙撃手の名は蠍


「くしゅん、」

 船の旅、なう。平次さんは地元の事件に引っ張り出されたためにそのまま別れ、俺たちは鈴木家の船で東京に向かうことになった。ちなみにくしゃみをしたのは高遠である。アキが心配そうに高遠をみている。昨日、海に落ちたのはアキを助けたからとか言っていたが、場所的には怪盗キッドの逃走経路先にいたわけであるし、怪盗キッドを助けたんではないだろうか。いや、でもな。というか、このくしゃみは絶対演技だと俺は思う。そんな疑うような目で高遠を見ていれば、西野さんが奥からメモリーズ・エッグを持ってきた。

「すいません、続けて」

 高遠の促しに、昨日西野さんと喋っていた女性――香坂夏美さんが口を開く。

「私の曽祖父は喜市といいまして、ファベルジェの工房で細工師として働いました。現地でロシア人の女性と結婚して革命の翌年に二人で日本へ渡り、曾祖母は女の赤ちゃんを生みました。ところが間もなく曾祖母は死亡。9年後、曽祖父も45歳の若さで亡くなったと聞いています」
「その赤ちゃんというのが?」
「私の祖母です」

 ふむ。彼女――夏美さんは両親と俺ぐらいの年齢で死別し、その祖母に育てられたらしい。その祖母が亡くなり、身の回りの整理をしていたらこの図面を見つけた、と。広げられた紙は古いものだとわかる。真ん中が破れてしまっているんですが、とつげた彼女に、図面を横から覗く。メモリーズと書かれたソレ。確かに装飾はメモリーズエッグと似ている。しかし、なんだか違和感がする図面である。それを眺めていればコナンが近づいて口を開く。

「ねえ、もしかして、卵は二つあったんじゃない?」
「ん、たしかに。図面の卵のサイズがちょっと違うもんな。合わせても輪郭が合わないし……真ん中ごっそりなくなってるんじゃないか?」

 俺の言葉に、周りは納得する。コナンがメモリーズエッグをとってみあげた。ずっと思ってたけど、周り皆素手で触り過ぎじゃないか。ソレ美術品。八億値段がつくやつ。指紋あんまりつけたらダメなやつ。

「ん? こんなところに鏡が」
「おい、コナン、ソレ、こわすなって、あ!」
「あ! やべ! とれちゃった!」
「ばーろー! どうすんだよ!」

 そう言って鏡を拾おうと机に潜る。毛利探偵がコナンに怒る。いいぞ、もっとやれ。毛利探偵の言葉は正論だ。拾おうとしたら手袋をつけた手がそれをかっさらう。

「ヤマトくんも手袋をつけたほうが良いんじゃないかな?」

 そう眉尻を下げた高遠に「ごもっともで」と苦笑いする。お前は指紋つけたくないから手袋常備だもんな。ぬかりのないことで。

「大丈夫大丈夫、私がおもちゃにしてたやつだし、あの鏡簡単に外れるようになってんの」

 園子嬢はそういってあっけらかんと笑う。そういう問題でもない、気がするけど。高遠は鏡を見て少し目を見開くと、アキに何かいい、アキはソレを見て俺とコナンを手招いた。なんだなんだと見てみれば、高遠の白い手袋に何かが映し出されている。

「遠山さん、ソレかして!」

 そう告げたコナンに高遠は鏡を渡す。続いてコナンは西野さんに電気を消すように言った。

「ヤマト、ライト」
「ん? おう」

 そう言って、スマホの懐中電灯機能を使ってライトを鏡に向かってつける。すると鏡は光を反射して壁に何かを映した。
 そこに現れたのは城の写真である。

「どうして絵が……」
「魔鏡、ですか」
「ああ、間違いない魔鏡だ」

 オフチンニコフさんの言葉に、高遠がそう答え、乾さんがソレを認める。魔鏡? と首を傾げたアキと俺に、青蘭さんが口を開く。

「聞いたことがあるわ。鏡を神体化する日本と中国にあったものよ」
「そう、鏡に細工がしてあってな。日本ではそれを利用して隠れキリシタンが密かに祈っていたという」

 鏡に細工? と首を傾げれば、鏡に目には見えない細かい凹凸があり、それで模様を浮き出させているとのことだ。なるほど。しかし、高遠曰く紀元前の中国にはもうあったらしい。昔の人すごすぎるだろ。理論があったわけではないのに。

「沢部さん、このお城は」
「ええ、横須賀の」

 夏美さんの言葉に、執事の沢部さんが頷く。横須賀、といえば、確かに城があるのだ。ただ、この前の蝋人形であふれたバルト城のように禍々しい――美女と野獣のあの呪いが解ける前の城のようなものではなく、シンデレラに出てくる城にちかい。よくテレビのCMやドラマで使われているそれだ。その城はもともと夏美さんの曽祖父さんが作った城らしい。
 と、いうことは、だ。毛利探偵が今、仮説を立てているが、このエッグは夏美さんの曽祖父が作ったもので、ロシア革命の後に持ち帰ったもの、と言うのは納得できる。もう一つのエッグを城の何処かに隠したことを、鏡という形で示したことも。夏美さんが取り出した大きな鍵に、目を瞬く。さしずめRPGなんかによくある宝箱の鍵ってことだ。おもしろそうである。

 そのまま、流れるように俺たちもエッグ探しに行けることになった。喜べばいいのか、嘆けばいいのか。まぁ、リアル宝探しと考えれば楽しいかもしれない。そして順次解散、となった集まりに高遠が夏美さんを呼び止める。

「夏美さん、貴方の苗字は曽祖父さんと同じなんですか?」
「ええ」
「そうですか、ありがとうございます」

 そう笑った高遠はもう一度小さくくしゃみをした。

「アキ、僕らも御暇させてもらいましょうか」

 やっぱり、あれ、都合の良い演技だと思うんだが。アキはええ、と頷いて俺を手招いた。