狙撃手の名は蠍
いるよなぁ、余計なことを言って変な火蓋を落とすやつ。そう思いながら、寒川さんを見送る。マリア――ニコライ二世の謎に包まれた三女の指輪。おそらく個々に集まっている全員が喉から手が出るほど欲しいものだろう。エッグ目的でやって来た全員はコレクターといえばコレクターだ。
……というか、オフチンニコフさんがガチでタダの大使館員に見えなくなってきた件。イヤ、あんなふうに柱にもたれて横目で人の動向を伺うとか何処の映画の登場人物だよ、とか思ってしまうわけで。あと、ロシアと言えば重宝のイメージもある。オフチンニコフさんを見つめていれば、パチリ、とあった目。オフチンニコフさんが首を傾げた為、近寄ってみる。
――他にロシア、といえば。
「なあ、オフチンニコフさん。ロシアの人ってそんなにウォッカ飲むのか?」
そう言えば目を瞬かれた。そして、困ったように「結構ね」とつげた。昔ウォッカを飲んだことがあるが、アレはきつかった覚えがある。喉が焼けるかと思った。その隣ではウワバミの友人がごくごく飲んでたが。
「なんか美味い飲み方があるのか……? 皆結構喉焼けるとか言ってるイメージ……いや、なんかショットガンとかはゲームなんだっけか……?」
「坊やはよく知ってるね。ショットガンは確かにゲームだ。机に叩きつけて――グラスの中が透明になるまでに飲む干すんだよ。ただ、こっちではストレートで飲むことが多いかな。慣れだよ。大きくなったら飲んでみるといい」
おお、なんか喋ってみるといい人だとわかる。というのも、俺の目線に合わせて屈んでくれるからだ。見かけがコワイだけだな、この人。
「ロシアって言えば、バレエか。後建築も変わった形の多いイメージだなぁ。後、寒い」
「よく知ってるね。バレエは有名なバレエ学校があるんだ。寒さは日本に比べるとね」
「……あと、奇術師兼建築家のユーリ・イワノフ」
「ああ、彼か。彼の建築はいくつか資料館になっているよ。日本の北海道にもあったはずだ」
まさかそこで知りましたとはいえないためお口にチャックである。ちなみに、なんであの館あんなに変わってたんだ? という俺の問いに対して高遠が答えて知る形になったのだが、それは別の話である。
そんなこんなオフチンニコフさんとロシア談義をしていたら日が暮れた為そのまま別れる。その際、アキがオフチンニコフさんにお礼を言い、オフチンニコフさんは笑って赦してくれていた。ありがたい。
部屋に戻って休憩をしていたら、何かドタドタと走る音がして扉の方を見る。本を読んでいた高遠もそちらを見て、ウトウトとしていたアキは目を覚ましたらしく、少し眠たそうに扉を見た。
「何か起こったんですか……?」
「少し見てきます。アキはここでまだ休んでおいてください。行きますか、ヤマトくん?」
「ああ!」
そう高遠に続いて部屋の外へ出た。どうやら走っていったのは西田さんらしい。遠くの方で「寒川さんが死んでいます!」と叫んだ声が聞こえる。は、と思っていれば高遠は西田さんの声がする方、ではなく反対に足を進めた。
「確か、寒川さんの部屋はこちらの方ですよ。それにしても、探偵というのはよく事件を引きますね」
お前はふっかける方だけどな、と思いつつそちらへ向かう。鈴木会長と園子嬢が部屋を見ていた。
「どうかしましたか?」
「遠山さん! 寒川さんが!」
そういった園子嬢に高遠は部屋を見た。同じくオレも部屋の中を見る。部屋は荒れているのが特徴的。死体は頭部から血が出ている。が、血の飛び散り方が不思議な感じだ。今まではナイフで切られたり棒で殴られたものではあるが、それらとは類似しない。近づいてみないと詳しいことはわからないな、とおもっていたらコナンや毛利探偵がやって来た。
部屋の中に入った毛利探偵に、高遠は懐から何か取り出す。白い手袋だ。
「毛利探偵、これを。ないよりはマシでしょう」
「ああ、」
コナンが入ったのを見てオレも入る。死体に近づく。死体は右目を下に向けていた。
「右目を撃たれたようですね」
同じく隣に並んだ高遠がそう告げる。この血のとびようからして、恐らくは貫通したんでしょう、と淡々と告げた高遠は立ち上がった。
「右目……キッドと同じか?」
「ああ、キッドのモノクルは右だ。間違いない、同一犯だ」
そっと死体を触る。硬直が始まったところ、ということは恐らくは死後三十分程度――。
「……子供が触っていいものではありません」
そういって俺を持ち上げた高遠に、バタつく。隣ではコナンが投げられていた。毛利探偵すげえ。子供あそこまで投げ飛ばすとか。俺はおとなしく高遠に外に連れ出される。
「指輪のペンダントがなくなってる」
そう呟いた毛利探偵は警察を要請する。俺は高遠を見上げる。相変わらず余裕綽々とした雰囲気である。
「お前、心配事とかないの?」
「アキのことぐらいですかね」
そう肩をすくめてみせた高遠は「後は警察に任せましょう」といってその場から離れた。