狙撃手の名は蠍


 コナンと一緒に西田さんの部屋に入る。決定的な証拠――指輪が発見されたが、恐らく彼が犯人ではない。彼の困惑は本物だと思うし、彼はキッドが狙撃された時確か美術館で大勢の警察といたはずである。彼ではない。ベッドに向かったコナンに続いてベッドに向かい枕に触る。俺の部屋の枕とは違う感触だ。ザラリとした感触、というか。

「そば殻枕か?」

 俺のつぶやきにパチリと瞬きしたコナンが同じように枕を触った。

「ああ、この感触はそば殻枕だ」
「なんでそば殻なんか……羽毛アレルギー、か?」
「それだ!」

 俺の言葉に答えたコナンに、毛利探偵が殴りかかろうとする。上手いことヒラリとかわしたコナンは西田さんに羽毛アレルギーなんじゃないかと聞いていた。……いつも思うけどよけんのなれてんな、こいつ。
 コナンの言葉を西田さんは肯定する。コナンが続けて口を開いた。

「なら、西田さんは犯人じゃないよ」
「なんだって?」
「現場は羽毛布団も羽毛枕も切り裂かれてたからな。アレルギーの人には無理だろ」

 そう言って少し考える。彼の部屋が羽毛ではないということは、前から知っている人が彼の部屋をメイキングしているんだろう。そして、恐らく。

「アレルギーで命を落とすこともあるし、秘書のことだから鈴木会長も知ってるんじゃないかな?」

 そう少し子供ぶって首をかしげる。そして、そのまま流れるように鈴木会長のもとへ向かうことになった。

「ヤマトは今回の事件、どう思う?」
「十中八九、犯人はキッド撃ったやつと一緒だろ。二人共撃たれてるのは右目だったし。キッドは狙撃だからずれた可能性は充分あったけど、寒川さんの場合、至近距離なら眉間を撃ち抜いたり、脳幹を撃ち抜くこともできたはずだし」

 肩をすくめてそう言えば、コナンは驚くようにこちらを見た。なんだ? と首を傾げれば、コナンは「いや」と口を濁す。本当になんだ? 

 たどり着いた鈴木会長の場所。どうやらアキと高遠も移動していたらしい。鈴木会長と園子嬢、蘭さんにまじってお茶を飲んでいた。目暮警部が件のアレルギーを尋ねれば、鈴木会長はあっさりと認める。どうやらくしゃみが止まらなくなるらしい。考え込んだ目暮警部に、コナンが話を切り出した。

「警部さん、スコーピオンって知ってる?」
「スコーピオン?」
「色んな国でロマノフ王朝の財宝を専門に盗み、何時も相手の右目を撃って殺してる悪い人だよ」

 コナンの言葉に目暮警部は「そういえば、」と思い出すように口を開いた。

「そんな強盗が国際指名手配されてたな……ええ!? じゃあ、今回の犯人も!」
「そのスコーピオンだと思うよ」

 コナンはそう言って「多分、キッドを撃ったのも」と付け加える。高遠が少し目を細めて紅茶をすする。

「なんだって!?」
「……キッドのモノクルが割れてた。キッドは右にモノクルを付けてる」

 コナンの言葉に付け加えるようにして告げる。アキが紅茶を机に置きながら口を開く。

「スコーピオンがキッドを撃って、キッドの持っていたエッグを横取りしようとした――?」
「ええ、そう考えれば辻褄が合いますよ。彼の盗んだものも列記とした『ロマノフ王朝の財宝』ですから」

 アキの言葉を肯定した高遠は、どこか不思議そうな表情を浮かべながらコナンを見た。

「しかし――先ほど私たちと話していたヤマト君はともかく、コナンくんはどうしてその情報を?」
 ヤマト君から聞いたわけではないでしょう? 

 高遠の言葉に俺とコナンは顔を見合わせる。そして、コナンは「あ、えっと、これは、つまり!」と焦ったように言葉を濁す。助け舟を出してやるか、と思ったが、先に白鳥警部が口を開いた。

「阿笠博士から聞いた。――そうだろ? コナンくん」
「あ、うん、そう」

 苦笑いしたコナンに、白鳥警部を見上げる。
 あれ? たしか、この警部って――。

「しかし、犯人がスコーピオンだとして、どうして寒川さんの指輪を西野さんの部屋に隠したんだ?」
「それはさっぱり……」

 毛利探偵の言葉に、コナンは渋い顔をしている。アキがそれを見て少し首を傾げた。コナンが何も言わないことが不思議らしい。そうだよなぁ。何時もスイスイ一人で問いてるもんな。と、いうことで、助け舟を出す。

「西野さんと寒川さんは知り合いなんじゃねーのか?」
「え?」
「昨日、美術館で寒川さんが西野さん見た時、スゴイビックリしてたから」
「本当かい?」
「寒川さんってずっと海外にいたんだろ? そこで会ったんじゃないか?」

 俺の言葉に、西野さんはしばらく考えた後「ああ!」と声を上げた。
 話を聞けば、内戦地を旅していた時、泣いている女の子を映像におさめていたのを怒ったらしい。注意してもやめなかったから殴った、と。……西野さんつよいな。普段優しい人ほど怒るとコワイんだよな。

「じゃあ、寒川さんは西野さんを恨んでるはずだろ?」
「――ああ、成る程」

 そう納得したような声を出したのはアキである。さすがアキ、理解が早い。

「アキちゃん?」
「寒川さんが殺されたことと、指輪の盗難は別の話なんですね」
「そうか! この事件は、二つの事件が重なっていたんだ!」

 アキの言葉に理解したらしい毛利探偵は手を叩く。二つの事件? と首を傾げた目暮警部に、毛利探偵は説明する。
 一つは、寒川さんが西野さんを指輪泥棒としてはめようとしたこと。もう一つは、スコーピオンによる寒川さんの殺害。
 まあ、言ってしまえば、寒川さんが西野さんが指輪を盗んだと騒ぐ前にスコーピオンに殺されたのだ。因果応報とはいいすぎだが、まぁ、彼の場合見せびらかさなければ殺されなかったのである。いや、何かを撮影しなければ、なのかもしれないけど。

「目的はおそらく、スコーピオンの正体を示す何かを撮影してしまったテープと指輪。しかし、指輪が見つからないためスコーピオンは部屋を荒らしたんです」

 毛利探偵の言葉に、コナンが「すごいよ、おじさん」と褒める。俺も一応「すげー」といっておく。いくらか棒読みなのは諦めて欲しい。

「そうなれば、まだスコーピオンはここにいるのか」
「そのことなんですが、救命艇が一隻なくなっていました」
「スコーピオンはその船で?」
「一応連絡はしましたが、発見は難しいとのことです」
「取り逃がしたか」

 考え込んだ目暮警部に高遠を見る。相変わらず困惑した表情を浮かべているが、あれは魔術列車のときに浮かべてた表情と一緒なので恐らくは表面上だけだろう。

 ――果たして本当に逃げたのか。
 その答えはどう考えても「イイエ」だが、コレは多分金田一の連続殺人によく巻き込まれているからこその考えかもしれない。乾さんと沢部さんが「安心した」といっていたがコレは安心してはいけないそれであるし、白鳥警部が「スコーピオンがもう一つのエッグを狙ってくる」と言った通り必ずまた現れるのが定石だろう。
 苦笑いしてアキ達を見る。蘭さんがコナンを凝視していた。これって確か、コナンが工藤新一だと疑ってるんだよな、と思いながら、また違う意味で苦笑いする。白鳥警部が目暮警部に同行の許可を願い出て、毛利探偵はコナンに目線を合わすようにかがんだ。

「おい、聞いたたとおりだ。今度ばかりは絶対に連れて行くとこはできんからな」

 ……うーん、こうして見てるといい人なんだよな。子供の目線に合わせたり、危険だとわかっていればこうやってストップを掛けるのだから。

「ヤマト君もですよ」

 コナンに助け舟、と思っていたら高遠が口を開く。え? と思っていたら高遠が息を吐いてこちらを見ていた。アキも少し目権にシワを寄せてこちらを見ている。

「今回は危険すぎる」

 今更すぎるだろ。そう思い口を挟もうとすると、白鳥警部が口を開いた。

「――いえ、彼らも連れていきましょう。もちろん、飯塚さんも」
「え?」

 まさかのフォローに目を瞬く。白鳥警部は毛利探偵と高遠をみた。

「彼らのユニークな発想が役に立つかもしれません」
「こいつらの?」
「ええ。それに、遠山さん、貴方は飯塚さんのボディーガードだ。警察公認なら、コレくらい守れて当然でしょう?」

 そう尋ねた白鳥警部に、高遠が少し眉間に皺を寄せて――ため息を付いた。

「ええ、もちろん。しかたありませんね、警部さんが彼女たちに協力を求めるなら。しかし、先に行っておきますが」

 目を細めて高遠は白鳥警部を見る。

「私が守るのはこの姉弟だけだ。それ以外は範疇外なので。まあ、警部さんが守ってくれるんでしょうが」

 ヤレヤレ、という風にそう言った高遠に白鳥警部が不敵に笑う。何だこの牽制。漫画なら火花散ってるやつである。