狙撃手の名は蠍
東京につき、とりあえず横須賀の城までの移動はタクシーである。人数の関係で、俺とアキと高遠は同じタクシーだ。
「毛利探偵は不思議な探偵さんですね。普段はああいう風におっちょこちょいなのに――というか、普段は剣持警部に似てるのに、有名な探偵さんなんて」
そう口を開いたアキに、俺は苦笑いする。まあ、実はコナンが全部解決の糸を引いてるとか言えない。
「コナン君がああいう風に誘導してくれているんでしょう。見たところ、彼は毛利探偵より頭が切れる。それも、金田一くんに近い」
高遠の言葉に「当たってやがる」と半眼になってしまうのは仕方がないだろう。
「たか――遠山さんは今回の事件をどう思う?」
「厄介な事件に巻き込まれた、としか思ってませんよ。怪盗キッドはともかく、あんな事件に発展するとは」
「そういうことじゃ――」
「ああ、あと、美しさも面白みも感じない犯罪ですね」
「そういうことでもねーよ。というか、そういう話もとめてねーよ」
そう言えば、アキがクスクスと笑った。俺は不服そうにアキを見上げる。
「ごめんなさい、二人の会話がおもしろかったから……続けて?」
「ま、十中八九スコーピオンは逃げてません。金田一くん風に言うなら『犯人はこの中にいる』でしょう。だから、貴方達を連れ帰る気でいたんですが」
キッド云々の目的は果たせましたし。
そう肩を竦めた高遠に、珍しく守る対象はアキだけじゃないんだよなぁ、と思っていたら高遠は「君は露西亜館を忘れたんですか」と小声で呟いた。うっ。アキの視線が厳しくなった。
「ヤマト、無茶をしてはいけませんよ」
「努力はする」
そう頷いておく。コナンに巻き込まれなかったら大丈夫だろう。……自分で言っちゃなんだけど、巻き込まれる気しかしない。おみくじを恨めばいいのか、どうすればいいのか。
しばらく沈黙、のちに、アキが口を開く。
「ロマノフ王朝――ニコライ二世といえば、アレクサンドラ王女の結婚相手ですね」
アキの言葉にアレクサンドラ王女? と首をかしげる。
「そう言えばそうですね。あの話の中では切り裂きジャックにさらわれてアルバート・ヴィクターと二人で暮らしていましたが」
「ああ! アキ達がコクーンで化けてた!」
ポン、と手を叩く。コクーンの中でアキ達が化けていたといか、演じていた二人だ。そうだそうだ。確か、アレクサンドラ王女は本当は後のロシア皇后なのである。アルバート・ヴィクターは彼女にふられた立場であり――というか、あの話もふられたあとの可能性はあるよな。死体でもいいからアレクサンドラ王女欲しいっていったんだから。っていうか、なんでアレクサンドラ王女はアルバート・ヴィクターに惚れたんだ。まあ、あの中の話の設定だからいいけど。
「……アレクサンドラ王女といえば、ラスプーチンですね」
「なんで?」
「一説によれば確か、彼女が彼を招き入れ――また、彼が力を得たのは彼女の力によるものが大きかったと」
「彼は皇太子の病を随分と回復させましたからね。その点、信頼を勝ち得るのは早かったんでしょう。そして、あまりの信頼の置かれように貴族は彼に嫉妬しはじめ、最後には彼を暗殺――」
そこまで告げて高遠が少し目を見開いてとまる。
「遠山さん?」
「いえ。アキ、ヤマト君、城についたらその話題はやめましょう」
「……? わかりました」
高遠の言葉に、アキは頷いた。俺は首をかしげる。
「なんでだよ?」
「貴方はラスプーチンが死んだ時、どういう風な死体が発見されたか知っていますか?」
高遠の問いに、首を左右に振る。詳しくは知らない。アキも首を傾げているのを見ると知らないんだろう。
「――右目が陥没していたんですよ」
右目。それは今回の事件のキーワードである。アキも動きを止める。
「――あ」
そして、俺は思い出した。今回の犯人を。