魔術列車殺人事件03
「血のように赤い薔薇をどうぞ」
不意に聞こえたその声と、カーテンから差し出されたカードに一瞬ビックリする。うたた寝状態にこれはキツイって。そう思っていれば、カードが掌になおされ、次の瞬間には一輪の薔薇になった。素直にすげぇ!と思い、カーテンを開ける。そこにいたのは、仮面をつけた男だ。高遠だろうその男――地獄の傀儡師(仮)をじっとみる。向こうは動揺もしない、さすがマジシャン、ポーカーフェイスはお手のものらしい。とりあえず、バラを受け取る。真っ赤な薔薇、だ。
「うっわ、すげぇ。なぁ、どうやったんだ?」
「……ヤマト、どうしたの?」
俺が素直に感動する声に起きたらしいアキが、カーテンを開けた。彼はそちらに向くと、数拍おいて「血のように赤い、特別な薔薇を」といいながらハートのクイーンのカードを薔薇にした。寝起きだからかなんなのか、ふにゃりと笑ったアキにとりあえず安心する。もう一回みてもわからないトリック。ただ、アキに告げた「血のように赤い、特別な薔薇を」という言葉に幾分か優しさが含まれている気がしたのは、俺の先入観からか。
「ありがとうございます」
一輪の薔薇を受け取ったアキに、地獄の傀儡師(仮)は満足したのか俺たちの寝台の場所から立ち去る。俺がそのあとを追うように、ついていく。姿は小1なんだからいいだろう。アキも追っては来ないし。しかし、いくら見てもトリックがわからず、その男が次の車両に向かうので後を追うのをやめれば、彼は最後に指を鳴らす。
「へ、」
落ちてしまった花に、驚いていればあたりから巻き起こる拍手。それを聞いて彼は車両から姿を消した。俺はそれを確認してから元の場所へ戻る。顔をのぞかせていた金田一は俺を見て首を傾げる。
「なにやってたんだ? ヤマト?」
「トリック見破ろうとしたけど無理だった」
「トリックねぇ」
そう言った金田一に、俺はアキの元へ行く。じっと赤い薔薇を見つめるアキに、首を傾げた。アキのバラの花は、落ちていない。
「あれ?アキの薔薇は花が落ちなかったのか?」
「ええ、」
「そういや、あのマジシャン、アキには特別な薔薇を、って言ってたっけ」
アキはあのマジシャンのように、薔薇を掌にしまうような動作をする。すると薔薇は消えてしまった。
「へ?」
それに俺が驚けばクスクスとアキが笑う。久しぶりに笑った顔に、ホッとした。
「さて、いい子は眠る時間ですよ」
アキの言葉に、上段のベッドに潜り込む。明日は確か、忙しい筈だ。目伏せれば、おやすみ、という優しい声が聞こえた。