魔術列車殺人事件04


 翌日、食事を取るために食堂車へ向かう。
 そしてついた食堂車は綺麗なものだった。まるでホテルである。四人がけのテーブル、ということで、俺とアキは美雪さん達に対し、通路を挟んだテーブルについた。

「ご注文頂いた薔薇のサラダでございます」
「薔薇のサラダ? 顔に似合わねーもんたのんだな、おっさん」
「待て、俺は頼んでないぞ!」

 そう言うおっさんに、薔薇のサラダを見つめる。確か、薔薇のサラダは小さな爆弾なんだっけ。そんなことを思っていると、目の前に白い車掌服の女性が現れた。ポケットに入っていたマリオネット――ロバートが動き出した為、そちらに目を移す。糸が見えないが、どうやっているんだろうか。

「やぁ、おはよう!」
「ん、おはよう、ロバート」
「昨夜はよく眠れたかい?」
「まぁまぁかなー。ロバートは?」
「僕はぐっすりだったよ!」

 なんてマリオネットと話していればアキを含む周りの人に微笑まれた。車掌服の女性にも、だ。まぁ、外見は小1だしな、と思っていれば、女性がショーの開幕を告げる。始まったマジックショーに目を輝かせた俺は悪くない。アキをチラリと見れば、微笑んでいるので楽しんでいるのだろうと思う。
 しかし、後ろから聞こえてきた会話に、表情を凍りつかせた。いや、会話というよりは『声』に、かもしれないが。

「ったく、仕方が無いな」

 そう言って立った男は確か、ノーブル由良間だったと思う。美雪さんを指名し、ブラを盗むマジックをして金田一に仕返しするやつ。じっと呆れたような目を向けるが、気づかれていない。

「麗しの青い目のお嬢さん、お手伝いいただけますか?」
「私、ですか?」
「はい、」

 そう告げた由良間に、アキは(ワザとではあるだろうが)何処か恥ずかしそうに、尚且つ顔を若干染めながら立ち上がった。チラリとマネージャーを演じる高遠をみる。何処か心配そうな面持ちだ。これは、まぁ、由良間のマジックを心配する表情なのか、アキを心配する表情なのかはわからないが。いや、関わりがない人はきっと前者を想像するに違いない。
 由良間がアキの肩を叩く。すると、ばさり、と落ちた髪にアキはキョトンとした表情を見せた。由良間は手のひらからアキのシュシュを取り出した。この流れはまさか。

「わたしの、シュシュ?」
「お嬢さん、他に何処かおかしいところは?」
「そういえば、胸元が……」
「お探しのものはこれかな?」
「え、あ、ちょっと!」

 アキは羞恥からか顔を赤く染める。鼻を伸ばした金田一が「ほほう、紺に白の水玉、白のレースか」と言って美雪さんに殴られていた。よろしい、もっとやれ。チラリとまた高遠を見る。高遠はあからさまに眉間に皺を寄せていた。由良間は手の中にそれを詰めると、まったく違うものにしてみせる。おお、と、どよめいた食堂車、アキは由良間を無表情で見つめ返すと、すぐに表情を変えて「すごい!」と言って笑った。

「すごいです、由良間さん!貴方の胸ポケットの紫色のハンカチも、いつの間にか紫色の薔薇になってるだなんて!」
「は、」

 そう言って、由良間さんは薔薇を取り出す。由良間の表情を見るに、アキがなんかやったらしい。観客から拍手が起こった。
 「貰ってもいいですか?」と首を傾げたアキに、由良間は戸惑いながらアキに薔薇を渡した。すると薔薇は赤色に変わる。キョトンとする由良間にアキはクスクスと笑う。それを一瞬にしてカードにしてみせると、アキは笑った。観客からまた拍手が起こる。

「仕返し、です」

 小さく呟かれた言葉は俺と由良間、金田一ぐらいにしか聞こえなかっただろう。また表情を変えて、「さすが由良間さん、私が何かしたように見せかけたんですね!初めて見ました!こんなマジック!」と褒め称える。呆然としていた由良間だったが、すぐに気を取り直したのか、顔を歪めて高遠を引き連れて部屋を出た。自分がやったものではないが、マジックが自分がやったかのように成功したのだ。この場所で文句は言えないだろう。高遠はあからさまに今度はホッとしていた。場が丸くおさまったことにか、それとも。

「あ、下着、返して貰ってない」

 そう呟いたアキに、俺はジュースを吹き出した。あそこまでして返して貰ってないのかい。一気に顔を赤らめたアキは、慌てて「一度部屋に戻ります!」と言って食堂車を出て行った。 ほんと、アキは、こういう場所がぬけてる。