狙撃手の名は蠍


 沢部さんに移動の合間の時間、幾つか聞いたことがある。前にバルト城っていうところに行ったんだけど、といえば、沢部さんは知っていたらしい。ああ、あの信州にあるお城ですね、と言った。

「あそこにはスプリンクラーついてたけど、ここはついてないの?」
「いえ、ついてますよ」

 普段、無人になってしまうこともちらほらあるため、半ば防犯――というか、ボヤが起きても対応できるようにしているんだとか。それと同時に消火器も設置してあるらしい。たしかにところどころ、隠されてはあるが消化器がある。

 ――しかしながら、実は、今回はそれが仇となる可能性は充分に高い。
 と、いうのも、今回撒かれているガソリンは油である。かえって消火のために降り注いだ水により、炎が燃え広がる可能性もあるのだ。油が水より軽いから怒ることである。
 と、いうことは、だ。一番有効手は消火器による消火であり、スプリンクラーではない。むしろ、スプリンクラーの水によりガソリンが流されて別の場所に燃え移る可能性もある。
 だから、コナンとは別れてスプリンクラーのスイッチを一斉にオフにできる場所にまでやってきたわけだ。
 椅子を引っ張っていると、足音が聞こえて振り返る。扉の先にいたのは高遠である。

「何をしているんですか」
「ガソリンが撒かれてるから、スプリンクラーきろうと思って」

 そう言った俺に、高遠はため息を付いた。そして、俺に近づき、俺の代わりに腕を伸ばしてスプリンクラーのスイッチをオフにする。

「アキは?」
「彼女は蘭さん達と一緒にいますよ」
「一緒にいなくてもいいのか?」
「スコーピオンはどう考えてもコチラにいますからね、下のほうが安全ですよ」

 そう肩を竦めた高遠はスイッチを見て何かに気づき、そのスイッチを押した。なんだ? と首を傾げたが俺には教えてくれないらしい。高遠は遠山遙治の雰囲気ではなくいつもの掴めない雰囲気に戻っている。俺しかいないからだろうけど。

「どこでスコーピオンとラスプーチンの関わりがわかったんだ?」
「右目の下りですよ。ロマノフ王朝の財宝を狙うこと、右目に必要なほどに執着すること、でしょうか。あのままラスプーチンが生きていれば、ロマノフ王朝の財産は殆ど彼のものになっていたでしょうから」
「――青蘭さんがスコーピオンだとわかったのは?」
「彼女の瞳の色と、彼女の名前、彼女の紡ぐ言葉、といえば満足ですか? 彼女の目の色はロシア近辺の北の国でしか見られない物であり、彼女のロシア語の発音は癖のない綺麗なものでした。中国の方がなりやすい日本語のイントネーションもありませんでしたからね。――しかし、君も気づいていたはずだ」
「まあな」

 そういって肩をすくめる。でも、発音云々は見抜けなかったな、と思う。うーん、着眼点が違うのはコイツが海外いたからだろう。
 不意に、もわり、とした熱気が来たと思えばガソリンに火がついたらしい。せまってきた炎に高遠はごくごく冷静に消火器の栓を抜いた。一瞬にして消化された炎に高遠が肩をすくめる。

「さて、行きましょうか。焼け死ぬのはゴメンでしょう?」

 そのまま消火器片手に消火しつつ、コナンのいる方に向かえば銃声が聞こえた。それに目を細めた高遠は奥を見る。その先、炎の先にはコナンと青蘭さんが向かい合っているのが見えた。

「私達が出る幕ではありませんね」
「そうだな、あんまり無理するとアキが心配するし」
「それは結構。わかっていたようで安心しました」

 高遠の言葉に、さっき死にかけましたとは言えない。口をつぐんで苦笑いしていると、高遠が「なにかあったようですね」と痛いところをついてきた。なにもいいたくない、と目線をそらせば白鳥警部が同じようにいた。彼もコチラの視線に気づいたらしく、何かジェスチャーをする。
 コナンの推理は続く。毛利探偵はラスプーチンを馬鹿にしたが上に殺されかけた。そして、蘭さんまでも狙った。それは恐らく、コナンを怒らせるには充分なんだろう。
 彼女は銃を構える。炎が広がる。撃てよ、といったコナンに高遠と白鳥警部が反応したが、俺が制した。

「大丈夫だから」

 俺の言葉とほとんど同時、である。青蘭さんが「馬鹿な坊や」といって引き金を引いたのは。

 銃声がした、が、コナンはそのまま立っている。衝撃が強く、のけぞったようだが、それでも銃弾は何処かに跳ねたようだ。阿笠博士すげえ。
 銃弾を再び装填しようとした青蘭さんに、高遠が薔薇を、白鳥警部が――銃のようなものを構えた。高遠はダーツを投げるようにその薔薇を投げる。薔薇は彼女の手の甲に刺さり、白鳥警部が放ったハードは彼女の手から銃を弾きおとした。
 その隙をコナンが見落とすはずがなく――コナンが近くにあった甲冑の頭部を蹴って青蘭さんの腹部に当てる。それと同時に高遠の投げた薔薇が散る。よくよく見ると、薔薇はダーツの針のようなものに変わっていた。
 と、いうか。俺が白鳥警部を見るのと高遠が俺を抱えるのは同時だ。浮遊感がして、高遠が走るのがわかる。白鳥警部も駆け出した。

「コナンくん、大丈夫かい?」

 そう尋ねた白鳥警部にコナンは頷く。白鳥警部が青蘭さんを抱え、高遠がコナンの首根っこを掴み上げた。

「帰りましょうか、自称『魔術師』さん」
「――……なんのことです?」

 高等の言葉に白鳥警部が目を瞬く。誰か複数の足音や声が聞こえる。先を見れば消防隊らしい人達がいた。目を瞬いていれば、高遠が肩を竦めつ。

「消防へ通報できるスイッチがあったので、おしたんですよ。彼らは絶対に現場を確認しにきますから」

 そのまま消防士さんにガソリンが撒かれたことが原因であることを高遠がつげ、消防隊に誘導されるように四人で外に出る。早めに沈火すればいいが、まあ、思っているより早くに消防隊が来たため消火は早いし城は残るだろう。ほっと息を吐く。なんとか、丸く収まったというか。

「青蘭さんは」
「私がこのまま警察署へ連行しますよ」
「ご苦労様です」

 そう言った高遠に白鳥警部は苦笑いした。

「私の言葉通りでしょう? 白鳥警部」
「――もう二度と、したくはありませんけどね」

 肩を竦めた白鳥警部は青蘭さんを車に乗せて走り出した。それを見送って、コナンと二人で高遠をみる。

「どういうことだ?」
「いえ、なにも」
「ヤマト! 遠山さん!」
「コナンくん!」

 そんな声が聞こえて三人で声の方をみる。アキ達が無事に脱出したらしい。走って近づいてきたメンバーにほっとする。なにはともあれ、解決、だろうか。ま、コナンにはこれから山場があるだろうが、怪盗キッドが助けてくれた記憶がある。

「頑張れよ、コナン」
「は、?」

 キョトンとしたコナンに手を軽く振ってアキに近づく。また無茶をして! と怒られたのは余談である。