狙撃手の名は蠍
さてさて、俺の目の前には怪盗キッドがいる。よお、ボウズ、と屈んだ怪盗キッドに目をぱちぱちと瞬いていれば、彼はおかしそうに笑った。
「なんでキッドがいるんだ?」
そう小さくつぶやく。いや、コナンのとこに現れるのは知ってたけど。俺の目の前に来るとは思ってない。
「お前のお姉さんに会ってあげてほしいって言われてな」
相変わらず目をぱちぱちと瞬く俺にキッドはスッと後ろを見た。
「お姉さんとあの人は?」
「あの人?」
「遠山さん、だったか?」
「ああ、下の階にいるけど」
「そうか――ボウズは遠山さんをどう思ってるんだ?」
尋ねたキッドは真剣な目だ。どう思ってるんだ、とは。アイツは犯罪者だ。そう、犯罪者なのである。本来なら、こういうふうに一緒に住むこともしてはいけないのである。
「――どういうこと、だ?」
そう首を傾げて知らないふりをする。姉には確かにあの人が必要で。だから。だから――? でも、それは擁護する理由にはならないだろう。いや、してはいけない。
「――いいや、なんでもない」
そっと首を振ったキッドは立ち上がる。そして、すこし悲しそうな顔で俺を見た。
「――遠山遙治って言う人間がいないって言えば、お前はどうする?」
「――いるだろ、ここに」
「そうだな」
目を伏せたキッドは、そのまま器用にベランダの手摺に立った。
「お姉さんを彼にあんまり近づけないほうがいい」
「どうして?」
「彼は――」
扉がノックされる音がする。そちらに意識を向ける。キッドが囁くように俺に言葉を告げて、それに振り向けば指がなる。鳩の羽音と同時にキッドは消えた。
「――わかってる」
そう空をみあげて言う。
「わかってる、けど、どうしたらいいかわかんねぇんだよ」
小さくそう呟いて、ノックに答えるように「はーい」と口を開く。顔を覗かせたのはアキである。
「ヤマト、お風呂が入りましたよ」
「ん、今行く」
そう返事をして、窓を締めた。