魔術列車殺人事件07
どうやらアキは熱が少しあるらしかった。明智警視のコパートメントで横になるアキはいかにも弱々しい。この六年で、初めて見る、それだ。
「今は熱はそんなに高くありませんが、この後高くなる恐れはありますね」
「そっか……やっぱ、無理してたのかな」
「貴方が気にする必要はないですよ」
しょぼん、としていれば、明智警視がそう告げる。慰めるように頭を撫でられて、沈んだ気分がちょっと浮上した。明智警視は俺から手を話すと、窓の外の風景を見る。
「もうそろそろ到着のようですし、君たちの荷物を持ってきますよ。貴方はここでアキさんをみていてください」
「ん、」
明智警視の言葉に、俺は頷いた。明智警視が出て行くと、アキが震える声で告げた。
「どうしよう、ヤマト」
「ん?何がだよ」
「どうしよう、どうしたらいい?」
アキの泣きそうな声に、もしかして、と思うのと同時に、やっぱりとも思う。でも、はやすぎないだろうか。アキは半ばパニックに陥っているのか、段々と涙目になっていく。俺はそれを慰めるように、先ほどの明智警視と同じくアキの頭をなでた。
「とりあえず、ちょっと寝たら? 頭の整理ができるかもよ」
そう告げれば、アキは目をゆっくりと閉じる。一筋の涙がこぼれ落ちていった。
ホテルに着いたのでアキを起こし、チェックインの手続きを取る。荷物検査は明智警視がまとめて引き受けてくれた。アキの表情は幾分かマシになってはいるが、まだ、ひどい顔である。
「アキちゃん、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ、気にしないで」
美雪さんの言葉にそう言って笑ったアキだったが、「安静にしてなさい」という明智警視の言葉に、金田一とは離れて部屋へ向かう。俺はアキがベッドに潜り込むのを見送ると、金田一達の元へいく。
「あれ、ヤマトくん、飯塚先輩はいいんですか?」
「アキは寝ちゃったから、降りてきた。暇だしな。何みてんだ?佐木さん」
「帳簿ですよ」
「帳簿?」
「都津根って人の名前を探してるんです」
そう言ってペラペラと帳簿を捲る佐木。彼が途中で止めたページの中腹に都津根毬夫と書かれているのを見つけて指差す。
「あったあった、見つけるのがはやいですね、ヤマトくんは」
「……マリオネット」
「え?」
「都津根毬夫、並び替えたらマリオネット、でしょ?」
「あああ!本当だ!先輩!!」
金田一の元へ駆けていった佐木に、俺は息を吐く。次に殺されるのは、由良間、最後に夕海。夕海殺害時のミスにより、高遠は犯人だと金田一に気づかれる。それがなければ、どうなっていたのだろうか。迷宮入りしていたのだろうか。
「ぎゃあああああ!」
不意に聞こえてきた叫び声に俺は駆け出す。今度は明智警視の制止が聞こえたが無視だ。階段を駆け上がり、叫び声が聞こえた部屋に行けば、アキが桜庭を支えていた。
部屋の中には、紐で吊るされた、ジェントル山神の死体があった。まるでその様はマリオネットだ。
バタバタと集まってきた金田一御一行に、場所を譲りアキへと近づく。アキは目を見開いてその光景を眺めていた。それが、魅入ってしまっているように見えたのは気のせいだろうか。小さく「まさか、やっぱり、」と呟いたアキを見たが言葉の意味はわからないままだった。