魔術列車殺人事件09
窓辺で考えこむ金田一をよそに、俺と美雪さんはパンフレットを見る。アキはあれからすやすやと寝付いてしまったため、不在だ。高遠と何を話したかは知らないが、表情がいつものアキに戻っていた。嫌な予感がするのは気のせいではない。
二人の間に『何か』はあったのだろう。俺が推測できないだけで。そんなことをパンフレットを見ながら思う。
――俺は、アキにどうなってほしいのだろう。幸せになってほしい、とは思う。ただ、アキの幸せにはこの事件で晴れて『犯罪者』となった高遠が必要である。この事件の話で印象的な言葉がひとつあった。金田一に対し自供を始めた高遠が告げる言葉だ。
――私は欺くことに快感を覚え、そして君はそれを見ぬくことに使命感を感じているようですが。
俺は、もしかして、知らず知らずに後者に傾いていってしまっているのだろうか。コナンや少年探偵団と行動を重ねて。そして、アキは何時か前者に傾いてしまうのかもしれない。このまま高遠と行動を共にすれば、だが。
「あれ、何よこの人」
不意に、美雪さんがそう言って顔を潜めた。思考を切り替え、美雪さんをみる。視線をたどってみれば、そこにあったのはノーブル由良間の写真である。まぁ、イケメンといえばイケメンだろう。貴公子と言われるのもまぁわかる。どちらも日本人から見ればに限られてしまうかもしれないが。彼に対して批判をする(中身は言わずもがな、アキの下着を盗んだことである)美雪さんに、明智警視がこの魔術団は世界的なマジシャン揃いだとつげた。たしかに、列車の中で見たマジックは凄かった。アキも楽しんでいたし。
「ということは、それを出し抜いたアキもすごいんだな」
「出し抜いた?」
そういった金田一に、明智警視が首を傾げる。と、いうより、アキの「仕返しですよ」というセリフを聞いていないメンバーが首を傾げた。
「聞こえてなかったのか? 多分、後半のマジックは全部アキがやってたぜ」
「そう見えるようにしたマジックじゃないんですか?」
「いいや、アキは『仕返しですよ』って言ってたからな。下着とられた仕返しだろーな」
そう言ってまたパンフレットに目を落とす。明智警視はそれは是非見てみたかったです、と言葉をこぼした。
「幻想魔術団って、近宮魔術団が前衛なのか」
「近宮魔術団?」
「おや、アキくんは知っているんですね」
「ん、アキから聞いた」
「近宮って、この人のこと?」
美雪さんが指さしたのはまさしく近宮玲子である。金田一も「列車の中で聞こうと思ってたんだよなぁ」といって、明智警視を見た。
あの明智警視が唯一認めたマジシャン。それが近宮玲子だ。アキは二度見に行ったことがあるらしい。一度目は高遠と見に行ったらしく、二度目は、俺と一緒にだ。ちゃんと覚えている。俺が一歳にも満たない年の時に、珍しく「行きたい」と両親にわがままを言ったアキ。その言葉に両親は俺とアキを連れて行ってくれた。とても凄かったのを覚えている。
「今、幻影魔術団がおこなっているマジックのほとんどが近宮玲子が生み出したものなんですよ」
「じゃあ、生きたマリオネットも?」
「いえ、あれは幻影魔術団のオリジナル……と、言われてますがね」
生きたマリオネット。高遠が近宮玲子の死に疑問を持った原因。もし、彼女が殺されていなければ。高遠が彼女の死因が「殺されたもの」だと知らなければ、俺は高遠の家族みたいな位置にいたのかもしれない。いや、いまも、実の親よりは『家族』の位置にいるっちゃいるんだが。
「どうしたぁ? ヤマト、へんな顔して」
「いーや、なんか嫌な予感しただけ」
「嫌な予感?」
そう聞き返した金田一だが、俺は部屋の入口をみる。そこから残間さんがやってきた。
「マジックショーは予定通り行われることになりましたので、劇場までお越しください」
そう告げた残間さんに、俺は思考を切り替える。何はともあれ、「死のマジックショー」が始まるまではただのマジックショーだ。
「まじでか! 楽しみ!」
そう言えば、残間さんに微笑まれた。俺は椅子から飛び降りると、「おさきに!」といってそこから駈け出した。後ろで「これだから子供は」的なことを金田一が言っていたが無視である。お前だって子供じゃん。