魔術列車殺人事件10
跳ね橋を駆け抜けていく。途中に一応アキの部屋を訪ねたが、アキはぐっすりと寝息を立てていたので起こさないことにした。まだまだ熱は下がってなさそうだからだ。劇場につくと指定された席につく。そこから明智警視や剣持警部、佐木、美雪さん、金田一という順に劇場にやってきて座っていった。もちろん、俺の隣はアキだった為、隣にはだれもいない。
始まったマジックショーに、息を呑む。やっぱり、世界で評価されているだけあって、舞台上でのマジックもとても凄い。全部トリックがあるなんて思えない。最後に行われた「生きたマリオネット」だって、本当に生きているようだった。そういえば、生きた人形といえば俺的にはチャイルド・プレイのチャッキーなのだが分かる人はいるだろうか。
もうすこしで生きたマリオネットが終わる、という所で、件の携帯電話が鳴り出した。マナーモードにしとけよ、と若干思ってしまった俺は悪くないはずだ。そして、立ち上がる金田一達。それをみていれば、フッと劇場の照明が落とされ、数秒後に、また、照明がつく。
ノーブル由良間の死体に、スポットライトを当てた形で。
数秒の静寂のあと、叫び声が聞こえた。俺は金田一について舞台へあがる。由良間、由良間さん、と周りが呼びかけるが反応しない。もう、死んでいるのは一目瞭然だ。俺は天井を見上げる。あのマリオネットがいた。たしか、マリオネットと由良間の死体を使って高遠は天井から劇場に降りた。エレベーターの容量である。でも、音や速度は大丈夫なんだろうか、と思ってしまった俺は悪くない。
「……ヤマトくん、貴方も目ざといようですね」
そう言った明智警視は俺と同じく上を見上げた。
「エレベーターとか、シーソーと同じ原理?」
「ええ、そのようです。でも、子供が死体を見るなんてあまりお勧めはできませんよ」
そう言って少し距離を取らされた。やっぱりまともな大人だ、うん。戸惑う剣持警部に、明智警視が助言をする。そこの人が全員天井を見上げた。犯人が外にいるのでは、と思い、駆け出そうとした剣持警部を引き止めたのは金田一である。たしか、金田一が転けたせいで跳ね橋が上がっているんだっけ。金田一は剣持警部をつれだした。そして、しばらくしてから戻ってきた剣持警部は明智警視とともに他の客を誘導し始める。高遠が俺を見ていたけれど、しらないふりをした。
観客の誘導が終わると、二人はまた舞台上に戻ってくる。いわく、怪しい客もあのマジックショー中、席を立った客もいないとのこと。その点を考えれば、確かに犯人は出演者に限られる。しかし、ソレを告げたとしても反発する奴がやっぱりいるもので。
「刑事さん、それって決めつけ過ぎじゃない? 俺達にはアリバイがあるんだよ。舞台に出てたっていうね。シーソーによって人形が持ち上げられたのなら、犯人は天井裏にいた。あそこに行って戻ってくるのにどれだけ時間がかかるとでも? それより、あの青い目のお嬢さんがいないじゃないか。彼女を先に疑うべきじゃないのかい?」
「い、いえ、彼女は無理です」
俺がかばう前に、高遠が庇う。ソレに目を丸くしていると、魔術団のメンバーが高遠をみた。
「彼女、このマジックショーがはじまる数時間前にあったんですが、立てないほどの高熱をだしてました。彼女にはきっと無理です」
「なによ、高遠。えらく庇うわね」
夕海さんの言葉に、高遠は顔を真赤に染めて「そ、それは」と告げた。被せたままでいいだろうに、とも思ったが、まぁ、どっちにしろ金田一はアキが犯人じゃないってわかっているか、等と思う。左近寺がまだ「由良間を出し抜くマジックを使える」という理由で、犯人=アキ説を唱え、高遠が「で、でも、」となど弱々しく庇う。ダメだ、沸々と怒りが湧いてきた。その論理、覆してやんよ。
「そこのマネージャーさんの言うとおりだよ。アキは今部屋で寝込んでる。確かにアリバイが無いようにみえる。でも、俺がこのショーを見に来る前に、ちゃんと本人が寝てるのを確認した。だから、それ以前の侵入は無理。俺達が最後に劇場にはいったけど、その間、誰もアキをここにくる道のりでみていない。あのホテルからここまでは一本道だしな。だから、俺達の移動中の侵入も無理。で、最後の客である金田一が跳ね橋を上げてしまったから、それ以降の侵入は無理だ。そうやって可能性を消去すれば、アキのアリバイは成立してるって言っても過言じゃないよ。それとも、まだ疑うんだったら、貴方達のアリバイも崩れるってこと、理解したほうがいいんじゃない?」
そう言って挑発するように左近寺を見る。左近寺は笑みを浮かべて入るが、頭にはきているらしい。
「そう、ヤマトの言うとおりだ。アキは容疑者から外してもいい。それに、確かにアンタ達のアリバイも崩れるんだよ。天井裏からここに来るのは一瞬で済むぜ」
「どうやって?」
「暗転した瞬間に天井から舞台に飛び降りればいい。由良間の死体に絡まったロープを使ってね。あれだけ大きな人形だ、重さも相当なものよ。犯人はソレを使って、エレベーターのようにして降りてきたんだよ。スルスルとね」
そう告げた金田一に、剣持警部が間違った推理を立てるのはすぐ後の事だった。