魔術列車殺人事件14


 声が聞こえる。アキの声ではない。聞こえるのは、金田一の声だ。覚醒しだす意識に、まぶたに力を入れる。

「――!――!おい、起きろ!ヤマト!」
「る、せーなぁ、金田一、耳元で、騒ぐんじゃ、ねぇよ」

 やっとのことで見えた金田一に悪態をつけば、その場にいた全員にほっとされた。頭を抱えながら起き上がれば周りには真っ赤な薔薇の花弁が散りばめられている。で、俺は薔薇の花を握っている。そういえば、高遠に眠らされたんだっけ、と思い出しながら金田一を見た。

「生きてたのか、金田一」
「馬鹿、それは俺の言葉だ。ったく、心配かけさせやがって」
「それは、わるかったけど、あんま騒がないでくれ、頭に響く」
「どうやらヤマト君は眠らされただけのようですね」
「でも、どうして、眠らされただけなんだ?」
「と、いうか、アキは?」

 その言葉に、全員がハッとする。気づいてなかったんかい!と突っ込みたくなたのは仕方がないに違いない。アキのいるはずのベッドは蛻の殻である。熱で体が動かないはずなのに、と思っていたら、扉をノックする音が聞こえた。金田一が扉を開けると、高遠と残間さんがいた。高遠はまたアキを姫抱きにしている。アキちゃん!と美雪さんが扉へかけよった。

「あの、彼女、劇場で寝こけていたんですが……」
「劇場で?」
「ええ、幾ら揺すっても起きなくて……しかたなく連れてきたんですけど……」

 残間さんがそう言いつつ、高遠がアキを開いている方のベッドへ優しくおろす。アキの手には真赤な薔薇が握られていた。

「これは、まさか、地獄の傀儡師、が……」
「その可能性は否めません。地獄の傀儡子がヤマト君に何かする前に、アキさんがソレを目撃してしまったんでしょう」

 いや、違う。高遠は俺もアキも殺すつもりはなかったはずだ。殺すつもりなら、あの時『眠らせる』のではなく、俺を底なし沼に突き落とせばいいのだから。アキを運んだのだって、俺を眠らせたのだって、『殺そうとした』と見せかけるためだけだ。

「じゃあ、アキは……」
「地獄の傀儡師について、何かを目撃している可能性があります。でも、彼女の体調を考えると無理に起こすのは躊躇われてしまいますね」

 そう告げた明智警視に、金田一も美雪さんも賛同する。結局その日は解散になり、俺とアキはいつ襲われるかわからない状態ということで、明智警視が同じ部屋で寝ることになった。なんだか申し訳ない。
 しばらく時間が立った後、眠気が一向に来ない俺に、そういえば、と明智警視が俺を見て口を開いた。

「アキさんに何時か聞こうと思っていたのですが、あなた達は『Ch.』シリーズを手がけている飯塚龍一と何か関わりがあるのですか?」
「あー……うん、飯塚龍一は父さんだよ」
「やはり、ですか」
「なんでわかったの?」
「『闇の男爵』シリーズに並ぶ『Ch.』シリーズ以外で、彼が年に一本書かれるか書かれないかという短編シリーズがあるんですが……その様子では知らないようですね。どちらかと言うと中高生向けのミステリーなのですが」

 明智さんの言葉に首を傾げる。父さんが『Ch.』という世界的にも有名なシリーズの作家であることは知っている。ミステリー界ではあの工藤優作の『闇の男爵』シリーズと肩を並べるほど、らしい。だが、父さんの小説は家にあるのは英語版のみのため、未だ読めていない。だから、短編シリーズなんてもってのほかである。

「『Parallel Lines』、日本語のものでは『とある姉弟の物語』というシリーズですが、その主人公が貴方達の名前なんですよ」
「え?」
「姉のアキと弟のヤマト。まぁ、作中では日本かぶれの父親がつけた名前、となっていますが」
「そう、なんだ。じゃあ、年に一回出るか出ないかってことは俺達と会った年に出してんだな」
「え?」

 今度は明智警視が驚く番だったらしい。彼は目を丸くした。俺は口を開く。

「父さんも母さんも一年に一回帰ってきたらいいほうだから、俺は殆どあったことないよ」
「それは……」
「でも、俺にはアキがいるから、アキがちゃんと保護者になってくれてるし。『父さん代わり』だっていたよ、もう逢えないだろうけどね」
「それは、酷な話題を振ってしまいましたね」
「ん〜、別になんとも思ってないしなぁ」

 そう、生活はできているのだから別にいといえばいい。『父さん代わり』がいなくなっても、いつかは誰かがそのポディションにつくだろうから。