007の厄日


「馬鹿か!お前!何死のうとしてんだよ!お前、自分は死んでもいいって思ってんのかもしんねーけど!お前が死んで悲しむやつもいるんだぞ!!」

 俺は今、物凄く怒っている。それは目の前にいる灰原哀に対してだ。
 博士たちと出かける為、バスに乗ったのはいいが、そこで起きたバスジャック。不意に犯人が起動装置を押してしまい、灰原が自殺を計って中から脱出しようとしなかったのだ。
 原作ではコナンがあの映画さながらの脱出を決めたわけだが、コナンが歩美ちゃんと手をつないでおり行動が不可。なので、俺がなすというアクシデントに見舞われた。で、無事に脱出した今、俺は灰原を怒っているのである。灰原は目線を合わそうとしない。ただ、小さく「ごめんなさい」と呟くのが聞こえ、ため息をついた。反省はしているらしい。

「……――俺も怒鳴りすぎた。悪い。でも、俺は心配なの、お前が。わかってくれるよな? むしろ、わかれ」
「!」
「怪我してんだろ。ほら、さっさとアガサ博士達と病院行ってこい、病院。俺はコナンと事情聴取受けてくるから」

 とん、と背中を押して灰原を送り出す。俺はコナンと共に事情聴取組だ。本来なら全員で受けるべきなのだろうとは思う。でも、黒の組織とやらがいるのかどうか知らないが、様子が可笑しい灰原を見ていればこうするしかないわけで。
 ……全く、少年探偵団で出かけた先で事件起こりすぎだろ。そんな生温い視線で死神でありすべての元凶(確定)を見ると、コナンは「なんだよ」と目を細めた。

「お前、怪我大丈夫なのか?」
「これくらい大丈夫だっての」
「嘘はいけませんよ」

 そう言って俺の手を取ったのは新出先生である。服をめくれば、あら不思議。怪我が。

「バーロー、お前、怪我してんじゃねーか」
「これくらい……いてて、新出先生!いたい!」
「縫う程ではありませんが、貴方も病院行きです」
「俺が事情聴取受けてくるから、さっさと病院行け」
「くっそー」

 新出先生に手を引かれる。途中であったジョディ先生に「007のジェームズ・ボンドみたいだった!」と褒められたが、そこは割愛である。嬉しいような嬉しくないような。




 俺は病院の後、何故かアガサ博士の家に送られたわけだが、佐藤刑事から話が来ていたようでアキが迎えにやって来た。にっこりと笑ってはいるが、怒っているらしいそれ。後ずさりすれば、アキは被害者を追い詰める犯人の如く近づいてくる。コナンも少年探偵団も見てないで助けろ。

「ヤマト、言うことを先に聞いておきましょうか」
「う、ご、ごめんなさい」
「貴方が怪我をして病院にいる、と聞いた時は本当にビックリしたんですよ。今回はこれだけで済みましたが、アクションシーンの真似事はよしてください。いいですね?」
「……はい、」

 がっくり、と項垂れる。言い訳も聞いてくれなかったか。ただ、アキが焦ったのは確かであるらしく、慌ててきたのかいつもなら帰ってすぐ着替えるはずの制服を着たままだった。アキは、はぁ、と息を吐いて「貴方を失うかと思いました」と小さく呟く。ちらり、とコナンを見れば、少年探偵団にアキについて説明しているようだ。アキはアガサ博士の方を向くと、ぺこりと礼をした。

「ご迷惑をおかけしてごめんなさい、アガサさん」
「いや、こちらももうしわけない……」
「いえ、悪いのはヤマトとこの事件の犯人なので、そうお気にせず……それに、いつも、ヤマトがお世話になっています」

 そこから、段々と世間話になったらしい二人をおいて、俺はコナン達の元へ向かう。

「言い訳くらい聞いてくれてもいいよなー」
「バーロー、自業自得だ」
「うるせーよ、」
「それより、本当にあの人って、ヤマト君のお姉さんなの?」
「まぁな」

 歩美ちゃんの言葉に、頷く。アキはその視線に気づいたらしく、こちらに歩み寄って人の良さそうな笑みを浮かべ目線を合わせた。

「こんにちは、いつもヤマトと仲良くしてくれてありがとう」
「そんなことないよ!」

 そう返事を返した歩美ちゃんに笑うと、アキはトランプをお菓子にしてメンバーに分け与える。わぁ、と歓声を上げた探偵団にアキは笑った。そして、視線を灰原に移すと首を傾げた。

「アキ、灰原は、」

 アキはカードを真っ赤な薔薇に変え、差し出した。灰原は驚きながらもゆっくりそれを受け取る。

「怖かったみたいですね。薔薇の匂いはリラックスすると聞きます。今日はゆっくりしてくださいね」

 そう言って何回か灰原の頭を撫でたアキは、「そろそろ帰りましょうか」と俺に声をかけた。しぶろうとも思ったが、心配をかけた分、従うことにする。灰原に一言、「無理すんなよ」と告げてから、アキの隣に並んだ。全く今日は厄日だ、厄日。