子の心、親知らず


 偶然帰り道でヤマトと会ったので、二人で買い物をする。そして、そのまま家に帰れば、何故か玄関の扉があいていた。高遠さんだろうか。そろりと玄関の扉を開ける。すると、きちんと並べられた革靴にそうかもしれないと少し腹を括る、が、隣に揃えられた真っ赤なヒールに違うのだ、と理解した。ヤマトもあからさまに顔をしかめている。まさか。
 ヤマトに目配せしリビングの扉を開けた。そこには、リビングで優雅に寛いでいる父とニコニコとほほえむ母がいる。
 ガチャリ。2秒もしないうちに、二人で扉を閉め、これは夢だ、とか、幽霊じゃないか、とかいう話をする。すると、丁寧に扉が開き、「あら、夢じゃないわよ」と母が微笑みながら言った。夢であって欲しかった。

 私とヤマトの両親は、有名な世界的推理小説家であり、その力量は現代で五本指に入るであろう父・飯塚龍一と、かの有名なアルセーヌ・ルパンの血を引く、日本とフランス人のハーフの母・飯塚アリスの二人である。バカップルのように仲睦まじい二人は普段、世界各地を飛び回っている。子供である私たちは放置されており、私は小さい頃から一人で暮らしをしていた。ヤマトに至っては私と暮らすようになってから、会った回数は両手になるか、ならないかないかくらいじゃないだろうか。要するにいい加減な親なのだ。作家として尊敬はできるものの、親としては全く尊敬できないし、私は彼らがどちらかといえば苦手だ。手を繋いだままのヤマトだが、手が強張っているのをみるとヤマトもあまり得意ではなさそうである。
 母に招き入れられ、リビングに向かう。

「綺麗になったわねぇ、アキ。恋でもした?」
「なんで、そうなるの」
「まぁ、いいじゃない。彼氏、いるんでしょ。愛されちゃてー」

 疑問、ではなく、断定だ。眉をひそめれば、そんな表情しないのー、だなんてふざけた声が聞こえる。

「999本の薔薇の意味を知ってるか?」

 不意に口を開いた父の言葉に首を傾げる。首を振れば、父は本から顔を上げてふっと笑う。そして、口を開いた。

「『何度生まれ変わっても貴方を愛す』と言う意味だ」

 その言葉に、顔が真っ赤になるのを感じた。ヤマトが戸惑ったように「アキ?」とこちらを覗き込む。片手で顔を隠せば、「図星か」という父の声が聞こえた。

「あの薔薇は枯れてしまった筈ですが」
「だろうな」
「メッセージカードも私が隠したはずですし、どうしてわかったんでしょうか?」
「どうしてだと思う?」
「見たのか、メッセージカード」

 ヤマトの言葉に、父はふっと笑う。「正解だ」なんていう父に薔薇を投げそうになるが堪えた。

「で、T.Y という男は俺達に挨拶にも来ないのか」
「ティー・ワイ?」

 ヤマトが首を傾げる。高遠さん曰く、私以外にメッセージカード読まれても誰かわからないように細工をしていると聞いた。と、いうのも、何故か知らないが私が読めば高遠遙一のイニシャルに見えるのだが、他人が見れば彼の偽名として作った遠山遙治のイニシャルに見えるらしい。トリックはわからないけど。

「挨拶も何も、貴方達は家に来ないでしょう」
「まぁ、それもそうか。なら、これに連れてくるといい」

 渡された白い封筒。それには何かのチケットと、金色のバッジが三つ入っていた。

「優作達と作っているゲームの完成パーティーの入場券と、オマケだ。まぁ、オマケといっても、必ずつけて入れよ。俺達もそのパーティーには顔を出す」

 興味深そうなヤマトに、その招待状を渡す。ヤマトはそれをじっと見ている。

「……連れて来なかったら?」
「生活費と学費の振り込み止める。結婚反対、別れさせる」

 人でなしがいる。生活費や学費などのお金に関しては、しばらくは困らないだろう。それでも、ソレを引き合いに出すなんて人でなしだ。乾いた笑を浮かべれば納得したらしい父は、何か思い出したようにもう一つ手紙を差し出した。

「あと、これ、断っといてくれ」
「自分で行かれたらどうなんです?」
「今日ここにいるのはフェリーまで時間があったからだ。この日は予定に合わない」
「……予定が合わないからって、招待状でしょ?」
「あぁ、遺産相続殺し合いゲームのな。こいつの遺産相続しなくても余裕があるんだよ。まぁ、確かにこの前カジノで大負けしたが、あれははした金だ」
「カジノの話も気になりますが、遺産相続殺し合いゲームってなんです?」
「自分では何も思い浮かばない陰険ジジイの、最後の嫌がらせ兼足掻きだ。まぁ、行って見ればわかる」
「龍一さん、そろそろ時間よ」

 そう言って微笑んだ母に、父は「もうそんな時間か」と言って立ち上がった。ちょっと待て。

「あ、後、これだ。これを遺産相続云々が始まる前に読んでおいてくれ」
「自分の子供が危険な目にあってもいいと?」
「もう散々あってるだろ? 殺人事件に」

 ふっと笑った父は、自分の分の鞄を持ち、そこから「じゃあな」と言ってリビングをでる。母はにこやかに笑いながら「じゃあ、元気でね!」と言ってリビングを出た。玄関の扉が閉まる音がして、ホッと息を吐く。ヤマトが興味を持ったらしい手紙を渡せばしげしげと眺めていた。やっぱり、苦手だ、あの人は。苦い顔をしてしまっていたのか、ヤマトが首を傾げる。なんでもない、と私は首を左右に振った。