露西亜館殺人事件04
午後11時。遅めの夕食だ。眠そうにしながらボルシチを食べるヤマトに微笑みながらこちらをボルシチを食べる。ロシアに倣って、とのことだが、そこまでロシアにこだわる必要があるんだろうか。
「神明先生、結局食堂に現れませんでしたね」
「はは、まあ、きっと酔いつぶれて寝てしまったんでしょう」
この場にいない評論家の神明さんについて話し始める。確かに、ずっと来ないままだ。嫌な予感がする。どういう予感とはいえないけれど。父の言葉を思い出すような。
ふと、話題がスカーレットさんに映ったようなのでそちらに目を移す。どうやら女流作家の梅園さんは仮面が気になるようだ。
「この仮面は、今は私の素顔同然ですので……」
まぁ、確かに仮面を取ってしまえば高遠さんだとはじめちゃん達に、周りの人々にばれてしまうだろう。そう思っていれば、スカーレットさんはこちらに視線を向けた。
「飯塚さん、何か?」
「いえ、まるでオペラ座の怪人に出てくるファントムのようだと思っただけです」
そう言って、クスリ、と笑う。周りが何か驚いていたのでどうかしたのかと首を傾げる。隣にいたヤマトが平然と「ファントムならその下の顔は嘸かし醜いんだろーな」と言い放ったので咎める。ヤマトはかなりのお眠さんらしい。不機嫌そうだ。
「ええ、醜いですよ。だからこそ隠している。意中のクリスティンに近づくファントムのようにね」
そう言ってワインに口をつけたスカーレットさんは何処か楽しげである。はじめちゃんがじっとスカーレットさんを見ていたけれど、何かに気づいたのだろうか。はじめちゃんは相変わらず勘が鋭いから。
神明さんの部屋から戻ってきたメイド桐江さん曰く、神明さんは声をかけても返事がなかったらしい。はじめちゃんとヤマトの視線が天井にあるのに気づき見上げれば天井に何かシミのようなものができている。どうやら、そこは来ていない神明さんの部屋であったらしい。異変を感じ取った二人をはじめとし、全員で向かうことになった。
神明さんの部屋に辿りつき、執事の田代さんやはじめちゃんが呼びかける。しかし、呼びかけても反応がない。中からは水の音が聞こえてくるだけだ。ヤマトはこの騒動ですっかり目が覚めたようで顔をしかめてはじめちゃんの隣に並んでいた。
「金田一、嫌な予感がする」
「ああ、俺もだ」
お互いに何か確認したのか、ヤマトはゆっくりと扉を開け、そのまま浴室へ直行する。田代さんの制止を振り切って二人が浴室を開けた。そこにあったのは、バスタブに浮かぶ神明さんの死体だった。