露西亜館殺人事件09
辿り着いたスカーレットさんの部屋へ入る。鍵を開け、スカーレットさんに誘導されてベッドへ向かった。そこにいたのは、頭に包帯を巻いた状態のヤマトだ。ソレを見た瞬間、私はヤマトに向かって駆ける。ベッドのそばに立つとヤマトの手を取った。はじめちゃんが驚く声も聞こえる。
「ヤマト!?なんで!?」
「金田一くん、静かに。ヤマトくんは意識はまだ取り戻していません。……アキ、私は医者ではないので確かなことは言えませんが、命に別条はないでしょう」
「よかった……」
「しかし、いつ気づいたんです?私が嘘を告げたと」
「ヤマトは首を切られてない。それに、違和感を感じたんです。時間がなかったのかもしれませんね。結局それがヤマトを救ったようですが。それに、死んだと判断したのがスカーレットさんでしたから、もしかして、と」
ゆっくりと上下する胸にホッと息を吐く。よかった、とポロリと流れた涙は止まらなかった。はじめちゃんが目を見開いたのが見えた。
「アキ、」
「本当に泣き虫ですね、アキは」
「だって、安心して、」
「えぇ、わかってますよ。ヤマト君は貴女にとって唯一血の繋がった家族といえる存在ですからね」
スカーレットさんに涙を拭われたが、止まることなく流れていくそれ。無理矢理止めようと目をこすれば腫れますよとやめさせられた。
「では、アキ。私は少し金田一君とお話がありますのでここを離れます」
「はい、」
「いい子です。……さて、金田一くん。私の部屋のトリックをお見せしましょうか」
そう告げてはじめちゃんを浴室に連れて行くスカーレットさんを見送る。ヤマト、と小さく名を呼べば、ヤマトが少し身じろぎした。意識を取り戻すのも時間の問題かもしれない。安堵から襲ってきた心地よい眠気に、目を伏せる。浴室からスカーレットさんとはじめちゃんの会話が聞こえる。どうやら、スカーレットさんが高遠さんだと暴露たらしかった。
「私はこんな屋敷から消え失せることぐらいいつだってできます。しかし、やらねばならないことが一つできてしまった」
「どういうことだ!?」
「この連続殺人の犯人・コンダクターは大変な過ちを二度犯しました。その過ちを償わせるまで私はここにのこらければならない」
「過ち?」
「そうです。一つ目は奇術めいたやり方で私の逃亡生活に力を貸してくれた友人を殺した。そして、二つ目は私の家族ともいえる大切な存在に手をかけた。しかも、真っ先に私が疑いのかかるやり方でね!」
家族ともいえる大切な存在。その言葉に、笑みを浮かべてしまったのはきっと仕方が無いことだろう。彼にとっても、ヤマトは家族である。それは私にとっては嬉しいヒトコトなのだから。
スカーレットさんがヤマトを私の部屋に移してくれた為、自分の部屋でヤマトを見守る。読書片手に見守っているとノックされた扉。返事をして扉に向かえば、はじめちゃんを筆頭に、スカーレットさん、犬飼さん、梅園さんがいる。
犬飼さんと梅園さんはヤマトを見て驚いている。とりあえず、生きていた経緯と今の状況を伝えれば、ふたりとも少しヤマトが心配そうだった。犬飼さんに謝られ、こちらもひどい対応をしたため謝る。その会話がひとしきり終わったあと、はじめちゃんが口を開いた。
「アキ、提案があるんだ。手伝ってくれないか?」
「……提案?」
「一芝居うって、犯人をあぶり出すそうですよ」
「では、結局、遺産相続人候補は全員犯人ではなかったと」
「そういうこと!」
そう言って笑ったはじめちゃんに首を傾げる。
「でも、一芝居うつ、とは?」
「遺産相続人候補は全員死んだふりをして貰うんだよ」
「犯人役はアキでいいでしょう。彼女はマジックが出来ますし、何より仮面の被り方が上手い。マジックの用品は、アキの隠し部屋にあるものを使わせてもらいましょう」
「……ちょっと待ってください、犯人役って?」
いよいよ話がわからなくなってきた。スカーレットさんは笑みを浮かべて、「私に殺される役ですよ」と告げた。