露西亜館殺人事件10



 夜中のころ、である。その計画は実行された。まず、幽月さんのように首と首から下が離れた状態で梅園さんが発見される。一見、グロテスクなそれだがちゃんと種はある。マジックの用法と幽月さんの死体を使ったそれだ。そして、犬飼さんもその近くで倒れている。大きな刃物を突き刺した状態で、だ。それは私の部屋の隠し部屋に会ったものを使用している。私と高遠さんによってふたりとも死化粧をされているそれらは本当に死体に見えるできばえだ。
 それを見て、悲鳴を上げた桐江さんに、佐木くんは顔を真っ青にする。スカーレットさんが不意にこちらを見た。

「これで遺産相続人は貴女だけになってしまいましたね、飯塚さん」

 そう告げたスカーレットさんを無表情に見た。そう、二人が死んでしまえば遺産相続人は私だけ。謎を解いても解かなくても、遺産はわたしにはいるのである。まぁ、二人が本当に死んでいたらの話だが。『犯人は貴女だ』と面と向かって私に告げる彼に、少し笑みを浮かべる。否定もしない。ただ、少し笑みを浮かべるだけの私に、彼は打ち合わせ通りに仮面を取り自らの正体を露わにした。

「お久しぶり、といった方がいいんでしょうか。高遠さん。そう、貴女の指摘通り私が犯人、になりますねぇ」
「まさか、貴女が犯人だとは……」

 そう告げた高遠さんに、くすりと笑う。何だか面白くて、クスクスと笑っていれば美雪ちゃんが、顔を真っ青にして私の名を呼んだ。

「一応聞いておきましょう。何故、貴女が?遺産などなくても貴女は苦しまないはずだ」
「ふふ、私は犬飼さんを殺した『だけ』で、他の殺人は私ではありませんよ。ヤマトを手にかけたのも、ね」
「ど、どういうことだよ、アキ」

 幾分か本気で戸惑っているはじめちゃんに笑みを浮かべたまま視線を向ける。

「そのままの意味ですよ。私は犬飼さんを手掛けただけであり、他はノータッチです。犬飼さんを手掛けたのも、襲ってきた彼を条件反射で刺し殺してしまっただけですし。まぁ、存外スッキリはしましたが」
「スッキリだって、?」
「だって、そうでしょう? 梅園さんを殺し、私に襲いかかってきたということは犬飼さんがコンダクターだったのですよ!ヤマトを殺したのは彼であり、私は復讐を達成した。復讐にこんな満足感があるとはおもいませんでしたよ。時間があれば、彼ももっと美しく、不可解に飾って上げたのですが」

 少し、残念そうにそう告げる。佐木くんが顔を余計に真っ青にした。高遠さんの犯行でも思い出したのだろうか。そのまま、クスリ、と笑って、高遠さんに視線を向ける。

「――本当は貴方に罪を着せる為だったのですが、こうなっては仕方がありませんね」

 高遠さんをチラリと見た後、取り出したトランプのジョーカーを少し血糊の付いたナイフに変える。

「人を一度刺してしまったナイフは切れ味が劣ってしまいますが――」

 できるだけ綺麗な笑みを浮かべる。

「急所をさせば、貴方達ぐらいは皆殺しにできるでしょう。そうすれば、なんの違和感もなくすべてが私のものになる」
「ひぃっ!」
「まずは貴方からです、高遠さん。どうぞ私の分の罪を背負って死んでください」

 クスクスと笑いながら、そう言ってナイフを振りかざす。美雪ちゃんの叫び声が聞こえる。構わず彼に偽のナイフを刺して抜いたようにすれば、彼は呻きながら腹部を抑えた。血糊が付いたナイフを眺めて少し首を傾げる。残念そうな表情を浮かべるのがポイントだ。

「急所を外してしまいました」
「アキ!やめろ!」
「大丈夫です。はじめちゃんも美雪ちゃんも友達なので、できるだけ一瞬で――」
「とても残念ですよ、アキ」

 ふっと聞こえた声に高遠さんの方をみる。目には狂気が宿っている。ふむ、やはり高遠さんには及ばないな、と違うことを考えながら首を傾げて彼を見た。

「例え貴女だとしても、私を侮辱した罪は重い。今度は私の番です」

 トン、と胸に走る衝撃。胸には薔薇の花が刺さっている。唖然とする周りを他所に、私はぐらりと体を傾けた。高遠さんの傷は薔薇の花びらとなって消えていく。どうやったんだろうか。高遠さんは私に近づくと私の胸に刺さった薔薇を引き抜く。いつの間にかナイフに変わったそれに、やっぱりこの人は凄いなと思いながら体の力をできるだけ抜いて崩れ落ちる。高遠さんがそれを抱きとめた。これで私の演技はお終い。後は死人にクチナシ、死人ごっこである。

「高遠っ!」
「おっと、近づかない方がいい。君は確かに頭が一般人よりきれるが、他は平凡な高校生。それに比べ、私は殺人者だよ?君が勝てると思うかい?」
「っ!」
「……ああ、安心してください。君の幼なじみ、アキの死体は――」

 顔を持ち上げられるのを感じる。目を開くことが出来ないので何もできはしないが。

「ちゃんと、私が責任を持って愛しますから」

 その台詞と共に落とされたキス。自分は死体だと言い聞かせる。深いものへと変わったそれに睨みたくなるのを抑える。やっと離されたそれ。

「ふふ、ファントムはクリスティーンを手に入れられませんでしたが、私は違ったようだ」

 愛しそうに告げられて抱えられる。そして高遠さんは何か思い立ったかのように、一歩引いて見ている周りを見た。

「ああ、でも、せっかくだ。せめて彼女の最後の願いぐらい叶えましょうか」
「願い?」
「ふふ、『皆殺し』ですよ」

 高遠さんの言葉に、周りの動きは素早かった。扉を閉め、封鎖してしまったのである。
 暗くなった部屋。しばらくして、人が移動する音が聞こえる。もういいでしょうと高遠さんが声を掛けると私は動き出した。

「高遠さん、何のつもりですか。死人に口無しを利用しましたね」
「貴女の死顔が美しかったので、つい、」
「つい、じゃないでしょう、つい、じゃ。佐木くんのビデオにばっちり映っちゃってますよ。どうしてくれるんですか」
「ヤマトくんにまた怒られそうだ」
「そういう問題じゃなくてですね、高遠さっ!」

 またキスをされる。不意だったそれ、しかも深いものをされて、息が続かない。力が抜けていくのを何とか高遠さんの服を握って耐えれば、満足したのか唇が離された。

「アキ、怒るのもお終いです。貴女に殺意を向けられた時は私でもゾクゾクしました」
「……」

 回転しない頭で高遠さんを見上げる。彼の機嫌はいいらしい。どこか満足そうなそれに、まぁいいか、と納得する私はとんだ高遠さん主義だ。はじめちゃんたちにはいえないのだけれど。何も言わずに高遠さんに抱きついておく。彼は笑いながらそれを享受した。しかしながら、聞こえてきた声に固まってしまったのは仕方が無いだろう。

「……何よ、もしかして、貴女達、できてるわけ?」
「おや、梅園さんに犬飼くん。もう少し、死人に口無しでいてくれてよかったんですよ?どうやらアキは貴女達を忘れていたようですし」
「〜〜っ!!」
「さて、金田一君が動き出したようです。ヤマト君を迎えに行って彼らに合流しましょうか」

 そう言って私の手を取った高遠さんにそっぽを向く。彼はクスクスと笑っただけだった。