露西亜館殺人事件12
はじめちゃんの合図に、扉を開けて現れる。驚く周りを他所に、高遠さんはヤマトを床に降ろした。ヤマトははじめちゃんに片手を上げる。はじめちゃんもそれに「目覚めたんだな!」とニカリと笑った。
「どういうこと!?」
「見ての通りさ!四人とも死んでなかったんだ!全部芝居だったんだよ!」
「芝居とは心外だな、マジックショーと言って貰いたいね」
説明する高遠さんに、首を傾げたヤマト。知らなくていいことだよ、と念を押す。余計なことを言いそうになった佐木くんに視線を向け、笑みを浮かべて黙らせる。ヤマトは本当に知らなくていいことである。そして、高遠さんの説明に補足を入れる形で口を開く。
「ヤマトは正確には意識不明の状態でした。スカーレットさん、いえ、高遠さんが死んだと偽ってくれたんです。犯人にもう狙われない為に。それでも、意識を失ったままでしたが」
そして、はじめちゃんの話は続く。遺書に書かれていた言葉。遺産相続人候補がいなくなれば、謎を解き明かした者が山之内先生の遺産を手にする行程になるらしい。そして、それを先に盗み見たのが桐江さんだった。ヤマトを襲い、三人を殺したコンダクターは桐江さんだったわけである。ヤマトを襲ったところを見ると、私も殺される予定だったのだろう、と推測する。私かヤマトが残ってしまえば、すべての遺産は否応なしに私達のものになるのだから。
しかしながら、いくら追い詰めてもひらりひらりとあの手この手でかわしていく桐江さん。潔くも何もない。第一、この人が犯人なら私の怒りの矛先はこの人に向くことになる。ヤマトを手に掛けようとした罪は重い。顔をしかめていると、高遠さんは何処からかナイフを取り出して眺めていた。桐江さんがまた高遠さんになすりつけ始める。それにまた沸々と怒りがわき始めた。しかし、ヤマトがこちらを心配そうに眺めてきたので私はなんでもないと首を左右に振った。それと同時にはじめちゃんが桐江さんを止め、高遠さんの様子を伺った。密室のトリックはわかっている。はじめちゃんはマスターキーをとりだした。それをみて、密室と言われたそれのトリックを理解する。
「あぁ、なるほど」
「おや、アキも気づいたようですね」
「知恵の輪みたいなもん?」
首を傾げたヤマトは犬飼さんからキーストッカーを借りると、くるくると回転させる。しかし、何かを思いついたらしい。一つの鍵を残し、他の鍵を鍵をワッカの端によせる。そして、一つの鍵をスルリと取り出した。
「……とれた」
「な、どうやって!」
ヤマトはそのマスターキーをはじめちゃんに渡す。はじめちゃんはそのトリックの説明をはじめる。心理的なトリック、見事周りはキーストッカーに付けられている錠前に騙されていたわけだ。完全に看破されてしまったトリック。それに桐江さんの表情が一変した。
「わかったわよ、みとめりゃいいんでしょ!!」
そう言って本性を出しはじめた桐江さんは昔を語っていく。始まりは父親が書いた一冊のノート。それを奪われて。父が生きていれば、そのノートを元に父が推理小説をかき、この富をえていたかもしれないという推測。はじまりは殆ど同じじゃないか、高遠さんと。
包丁を取り出した桐江さんに目を細める。これは厄介なことになりそうだ。
「もう、終わりにしてやるんだから!あたしの最悪な人生なんか、不運続きの辛い人生なんか、もういらない!」
包丁を首元に向けた彼女は、はじめちゃんを見る。
「バイバイ、名探偵くん」
刺す瞬間を見計らい、アクションを起こそうとするが高遠さんによって止められる。それに驚いていれば、彼女が首もとに包丁を刺した瞬間、薔薇が舞い散った。
「またすぐに会いましょう、アキ」
「高遠さん、」
くすり、とわらって窓枠に立った彼に目を移した。彼がどうやら先にマジックをしかけていたらしい。そのまま彼に視線を映していれば、彼は桐江さんに言葉を投げかけていた。優しい言葉、だ。それに息を吐き、目を伏せる。彼女への怒りをごまかすように、舞い散った薔薇の花弁を一つ手にとった。ふと窓の外を見れば、外の霧がはれてきていた。
「おや、どうやら霧が晴れてきたようですね。美しい湖に浮かぶ壮麗なロシア建築を眺めながら空の旅へと洒落込みますか」
窓の外に浮かんだ気球に乗り込んだ彼は、GOODLUCKと言い残して空に消える。彼を見送っていれば桐江さんが泣き出した。私は静かにヤマトの手をにぎる。どうやら事件にけりがついたようだった。