秘密二つ――It's anyone's call
後ろから、足音が、聞こえる。かつん、かつん、という足音が。
教会のステンドグラスから入る光はキラキラと色とりどりの影を落とす。
「アキが気を病む必要はないんですよ」
後ろから聞こえた声に、少し顔を上げる。声を発した人物に、背後から抱きしめられた。
「アキが気にする必要はないんです。全くない。ああなって当然の人物でしたから」
「でも、」
「……アキは私と一緒じゃ、嫌ですか?」
聞こえてきた寂しそうな声に違うと首を振る。そんな問題じゃ、ない、気がするのだ。混乱する頭では、『彼と一緒』が嬉しいことなのかどうなのかわからない。道徳的には許されないことだからだ。
ぎゅうぎゅうと後ろから抱きしめられて、止まったはずの涙が溢れ出す。彼はそれを見て、私を抱きしめる力を強くした。
「アキは私が守り通してみせます。必ず。そして、貴女が死ぬ時は私の死ぬ時だ。貴女が死ぬまで、私は死んだりしませんよ。消えて無くなることも、ね」
彼は一度私から手を離した。そして、私を正面に回り込むと、いつもの様に優しい笑みを浮かべた。神父の格好をした彼は私の頭を撫でる。
「ほら、今、私は形だけでも神の使いなわけですし懺悔なさい」
「懺悔、」
「ええ、吐き出してしまえば、楽になるでしょう」
ほら膝をついて。祈りを掲げて。
彼の言葉の通りに膝をついて、祈りを掲げるポーズをとる。そして告げた言葉に彼は優しい笑みを浮かべた。
「アキ、貴女がしたことは『安らぎ』を与えただけです。そう、逃げられない苦しみから開放される『安らぎ』を」
「――しかし、神様が許してくれると思いません」
「神も世間も関係ない。アキ、貴女がどんなことをしても私が許します。私がどんなことをしてもアキが許してくれるように。貴女が罪に苦しむなら、私は安らぎを与え続けましょう。貴女が私に与えてくれているように」
その言葉に彼を見上げる。彼は真面目な顔で私に告げた。
「人とより強力に繋がるには秘密が必要といいます。今回のこれは、私とアキにまた新しい秘密ができた、ただそれだけのことです。あの霧島純平のことのような、ね。そして、今後も、私とアキはその秘密を作り続ける」
「ひみつ、」
「ええ、だから、神に許しなんか請わなくていい。世間の許しもこわなくていい。わたしは貴女が何をしようと必ず許しますから。共通の秘密は私達をもっと深くつなぐツールです……そうだな、唯一、神に告げることといえば」
少し思案した彼は悪戯っぽく笑う。
「アキへの永遠の愛、ぐらいでしょうか」
クスリ、と笑った彼に、頭が真っ白になった。えいえんのあい、とは。
そして、その言葉を理解した瞬間顔が真っ赤に染まる。彼はまた真面目な顔で私を見た。
「アキも誓ってくれますね?」
頷けば彼は私に合わせてかがみ、私にキスを落とす。そして、抱きしめた。
「この世界の誰よりも愛していますよ、アキ。どんな貴女でも」
その言葉に、なんだか、先程のことがどうでもよくなる気がした。嬉しいのかどうかわからないことが、嬉しさに変わっていく。涙も止まってしまった。
そう、今回のことはあの人を苦しみから救ってあげた、それだけのことだ。そして、彼も同じく誰かの苦しみを救い続けている。それだけのことなのだ。
今回のことは、私と高遠さんの秘密、だ。いや、何もかも全てが秘密だ。秘密が、私たちを強く繋いでいる。最初の秘密は、純平お兄ちゃんのそれ。なんだ、昔も今も何も変わらないじゃないか。秘密だらけ、なのだ。わたしと高遠さん以外には、わからない、秘密だらけ。
何故か漏れてきた笑みに、ふふ、と声をだして笑えば、彼もまたわらった。
「これで、アキは、私と一緒ですね」
「そうですね」
「やっぱり、『僕ら』も『私達』もこうなる筋書きだったんですよ」
彼は私の手を引いて立ち上がらせる。そしてふわりと笑んだ。
「――さて、では、向かいましょうか。次の舞台へ」
そう言って彼は嗤う。とても楽しそうな笑みで。とても嬉しそうな笑みで。わたしはソレを見て笑う。秘密ができる事が嬉しくて、彼の手伝いができる事も嬉しくて。
――今日、私がこの教会でやってしまったことは、高遠さんと神のみが知る、秘密、だ。