Farewell of --lady consort01


 ヤマトが少年探偵団で海に向かうらしい。悪いことなのか、いいことなのかそのタイミングが、丁度、私の渡航の日と同じだった。
 私と行きたいと駄々をこねたヤマトに申し訳無さを感じる。高遠さんから前条件として『ヤマトは連れていけない』と言われていたので連れて行くことができないのだ。とりあえずヤマトに、『高遠くんが昔知り合ったマジシャンの方に少しだけ弟子入りする』と説明し、高遠さんは関わりがないと言えばしぶしぶだが納得してくれた。
 ただ、私は中国に長期の滞在になる。やっぱり一人で置いていくのは不安だ、と偶々会った蘭ちゃんにこぼせば、蘭ちゃんが『それならウチで』と言ってくれた。そのお言葉に甘えてヤマトはしばらくコナンくんの家に身を寄せることになった。あとでちゃんと菓子折りを持って行こうと思っている。

 そんなこんなで海外へとやって来た私だが、今は香港にある廃墟と化したホテルから少し離れた場所で待機中である。高遠さんいわく、『一緒に入ると危ないから』ということで、ホテル近くにある瓦礫に座って本を読みながら暇をつぶしていた。
 いつもと違うように髪を束ねて、伊達の黒縁メガネをかけているからか、とても違和感がする。本が見づらい。邪魔だから、どけてしまおうかと考えていれば、不意に雄叫びが聞こえた。
 聞こえてきたその声に一瞬ビクリと肩を跳ねる。そちらを見れば、ヤマトよりは歳上なのであろう少年と高遠さんがいた。少年はボロボロの服を着ている。髪はかなり長い。本をぱたんと閉じてそちらへ向かえば、足音に少年がビクリとコチラを向いた。

「警戒しなくても大丈夫ですよ。彼女は私のアシスタントだ。彼女の名前は――『マリア』」
「――マリアです、よろしくお願いします」

 ――マリア。マリオネットから取られた偽名だろう。私の容姿ではたしかに違和感がない名前のはずである。
 にこり、と笑って少年の手を差し出す。彼は一瞬戸惑って差し出された手をとった。

「さて、マリア。貴方には彼の身の回りのことをしてもらいたい」
「ええ、大丈夫ですよ。服などが必要みたいですしね。髪も切った方がいいでしょう」
「切るのはカリヤが落ち着いてからの方がいい。警戒されている状態で、刃物を見せるべきではないでしょう」
「それもそうですね」

 ボサボサになってしまっている髪を手で梳く。ゴワゴワとしてしまっているそれに、これは手こずりそうだと思いながら高遠さんを見た。

「彼のことは任しておいてください」
「ええ、お任せしますよ。私は下準備に入りますから」

 クスリ、と笑んだ彼に私も笑みを浮かべる。
 ――さて、美しいショーの準備だ。