Farewell of --lady consort03
あれから月日が流れて――。
私は男装をしてホテルにいたりする。カラーコンタクトで瞳をブラウンにして、鉄仮面をかぶって。さて、今回、私がする『高遠さんのお手伝い』なのだが、私はマジシャンとしてのお手伝いになる。はじめちゃんに、『催眠術』を掛けるふりをするそれである。幼なじみを罠にかけるのは少々気に病むが、高遠さんの計画の一部なのだからしかたがない。後は、龍道の計画が無事に遂行されるのを祈るだけだ。
「――アキ」
不意に後ろから抱きしめられて肩を揺らす。そして、彼に教わった通りに声帯模写で彼の名を紡ぐ。
「高遠さん」
「自分の声で自分の名を呼ばれるとは、いささか不思議な気分になりますね。しかし、良い判断だ。誰がどこで聞いているかわかりませんから。緊張は――していないようだ」
「貴方に随分と仕込まれてしまいましたから」
「ふふ、仕事は仕事です。楽しかったでしょう?」
「新しいマジックを覚えるのは楽しかったですが、急に舞台に出された時は心臓が止まるかと思いました」
「その割には上手でしたよ」
そう、龍道にいろんなことを教える傍ら、私自身も高遠さんにマジック諸々を仕込まれていた。いきなりマジックや声帯模写を教えたかと思えば、いきなりどこかの舞台に立たされる、という生活だった。大道芸からスタートさせてくれても良かったのに、どうしてかステージからのスタートで、心臓が止まるかと思ったのだ。息抜きに龍道が見にきてくれて、「すごい」と言ってくれたのが救いというか癒やしだったが。
「では、お互いに仕事が終わり次第、落ちあいましょう」
高遠さんに、手の甲にキスを落とされる。仮面のせいでキスができない、と文句を言った彼に苦笑いをした。ノック音が聞こえ、ちらりと高遠さんを見ればどこかに隠れた彼。返事をするとアシスタントの女の子がやってきた。
「Hi,Mr.Maskman!Preparation of show finished. Please come to the stage. 」
「――All right」
そう返事をして、部屋を後にする。さて、私の仕事のはじまりの時間は近い。
ショーが始まる時間となった。私は煙とともに現れる。ちらりと席を見れば、みゆきちゃんとはじめちゃん、佐木くんがいる。そして、ターゲットも。鉄仮面を見て、見るからに怯えた彼らに、時期に安らぎが訪れるさと思いながら龍道の手を引いた。まずは、仕込みがある催眠術マジックだ。
龍道を椅子に座らせ、催眠術をかける――ふりをする。空を飛びたい、と願った彼を浮遊マジックで浮かせると、歓声が上がった。彼を下ろすと拍手が巻き上がる。
――さて、ここから、である。
私はステージを降りて、はじめちゃんの前に立つ。そして、手を差し出してニヤリと笑った。
ステージに誘導し、龍道と同じように椅子に座った彼は引っかからない自信があるようで。でも、その自信さえも今回の高遠さんの『仕事』の計算には含まれているんだろう。高遠さんと似たような声色で、クスクスと笑う。
「You are smart, Mr.Kindaichi.But――」
クリスタルを取り出して、彼の目の前で一定の速度で揺らす。
「Nobody can escape from the crystal magic!」
彼の目がトロンとしていく、かかってはいない、はずだ。フリをしてくれているんだろうか。望みを問えば、「俺の、本当の望みは……」と、口を開く。そして――。
「――ママァ!」
そして、アシスタントの女の子に抱きついた。ソレに呆れていると、女の子が平手打ちを食らわしていた。自業自得だ。掛かったふりをしてくれていても。
とりあえず、女の子を庇うように立てばはじめちゃんは美雪ちゃんに引きづられていく。本当に、おもしろい二人だと思う。はやく恋人になったらいいのに。でも、それを邪魔しているのは――。
浮かんだ考えを振り払い、外へと続く扉を見た。二人に続いて、はじめちゃんの関係者だろう人たちも退出していく。ソレを見送ってから肩をすくめた。
さて、私の役目は一旦お終いである。後は普通にマジックショーでもして、他の観客を楽しませればいいだけだから。アシスタントにしゃべりかければ、彼女は困ったように笑った。