とある奇術師の奇行


「――さて、今日はここでおしまい」

 ピエロの面をつけた男が子供達にそう告げる。子供達は不満気な声を次々とだした。それを聞いた彼は少し可笑しく思い、面の中で笑みを浮かべる。
 ――全く、同い年ぐらいだというのに彼はちっとも子供らしくない。
 チラリとピエロが見た先には一人の少年。少し離れたベンチで見ていた彼は、手持ち無沙汰のようでつかない足をぶらぶらとさせている。

「さぁ、はやくお母さんの待つお家にお帰り。怖い怪人があらわれるまえに」

 そう言えば、散り散りとなって家へと帰り始める子供。あたりはもう夕暮れに差し掛かっている。ベンチに座っていた少年は、子供達が帰るのを見送って、ベンチから降りた。

「久しぶりだな、高遠さん」
「アキではなく、君がここまで来るとは珍しいですねぇ。ヤマトくん!」

 ピエロの面を外した男――高遠がそう言って笑う。ソレを聞いた少年――ヤマトは不満気に口を開いた。

「バーロー、アキならお前のせいで警官につきまとわれてるよ」
「そのようで。おかげで私も接触できない」

 肩をすくめた高遠にヤマトは封筒を差し出した。高遠はそれを受け取る。

「パーティーの招待状。お前、今の状態で来れるのか?」
「大丈夫ですよ、明日にはアキの元に顔を出しますから」
「は?」
「さて、君ももう帰った方がいい。ここから君達の家は少し遠いですし。はやく帰らないとアキが心配しますよ」

 そう告げてカバンを畳んだ高遠をヤマトは不服そうにみる。しかし、すぐにくるりと背を向けて公園から出た。
 ――さて、準備は整っている。後は明日だ。
 高遠はクスリと笑みを浮かべると、ヤマトとは正反対の方向に足を進めた。




「ねぇねぇ、あの校門の前にいる人、かっこ良くない!?」
「本当だー」

 そんな言葉を聞き流しながら、靴箱へ向かう。ここ最近、毎日ずっと、学校が終われば来る『迎え』がきているはずだ。アキはひっそりとため息をつく。いつになれば開放されるのだろうか。いつも来る『迎え』は警察官の格好をした方々で、噂好きな生徒達は、私が殺人犯(もしくは誘拐犯)に狙われている説や、私が事件を解決している説を流して行く。まぁ、それは許容範囲に含まれるのだが、実害はその噂を利用して近づいてくる輩なのであって。

「飯塚くん、やっぱり殺人犯に狙われているらしいじゃないか?俺が守ってあげるよ」
「結構です、先輩」
「い、飯塚先輩!いっ、一緒に!」
「遠慮します」
「相変わらずすげーなー、アキ」
「モテるわねー」

 背後から聞こえてきた声に振り返る。美雪ちゃんとはじめちゃんがいた。二人に少し不服そうな表情をすれば、二人は苦笑いした。

「見てないで助けて」
「ほらほら、アキが嫌がってるだろー」
「一緒にかえりましょ!アキ!」

 はじめちゃんの言葉に散って行く周り。美雪ちゃんの言葉に頷けば、二人はニコニコと笑った。あの露西亜館以降、二人も過保護である。高遠さんが私に近づいてくるかもしれない、という配慮みたいだ。私としては、剣持警部ならともかく、知らない警官と二人で帰るのは嫌な為、二人の存在はとてもありがたい。そう言えば、昨日、高遠さんに招待状を渡すようにヤマトに頼んだけれど、ヤマトはちゃんと渡してくれたんだろうか。帰ってきたヤマトは、どこか難しい表情だったが。

 靴箱で靴を履き替えると、女子生徒がそわそわしているのがわかった。三人で顔を合わせる。校門に近づくに連れ、あの人凄いかっこいい、とか、素敵、だとかいう声が大きくなってきた。校門に目をやると、きらきら輝いているように見える人物がこちらを見た。

「おかえりなさい、アキさん」
「明智警視……?」

 ニコリ、と笑みを浮かべた明智警視に、私は固まる。まさか。今日の迎えは。

「迎えに来ましたよ、アキさん」

 明智警視だったのか!
 はじめちゃんと美雪ちゃんが、明智警視!?と騒ぐのを筆頭に、周りがザワザワとしていく。頭が痛い。これはまた噂の種になりそうだ。現に私の彼氏説がもうできてしまったようで周りがこそこそというのが聞こえた。

「さて、帰りましょうか」

 そう言って明智警視は私を慣れたようにエスコートする。……慣れたように?


 しばらくして、はじめちゃんと美雪ちゃんとは駅で別れ、電車に乗り込む。初日は車送迎だったが、私が普段は電車なのだから電車がいいと頼んだからである。明智警視の顔をじっと見つめる。間違いなく明智警視の顔である。

「アキさん……?」
「いえ、明智警視ってかっこいいな、と」

 その言葉に僅かながら顔をしかめた明智警視にクスリと笑った。そのあとは雑談をしながら過ごす。彼の手を引き米花町で降りる。昨日に買い物はすましたし、三人分ぐらいの食事ならつくることはできるだろう。鼻歌を歌いながら、家へ向かう。誰とも合わずに辿り着いた家。鍵を開けて、彼を招き入れれば、彼は戸惑ったようだった。

「アキさん、誰もいない家に無闇に男性を招き入れては……」
「貴方だからですよ、」

 そう言えば、余計に顔を顰められる。それにはっとして、慌てて首を左右にふった。

「ち、ちがいます!明智警視だからじゃなくて」
「私、だからですか?」

 クスリと笑った明智警視は、何時もの明智警視の笑みでも声でもなかった。そう、高遠さんの声だった。彼は変装のマスクを外す。明智警視の格好をした高遠さんの誕生である。

「まったく、貴方には叶いませんね」
「本物の明智警視は?」
「彼なら昨日から海外へいってますよ。休暇を取ってね。しかし、休暇を取っている筈の明智警視にすり替わって警視庁へ向かっても誰も気づかないとは、普段どういった生活をしているのか」
「……待ってください。行ったんですか?警視庁」
「ええ」
「指名手配されてるのに?」
「ばれなければ問題ありません。それに、貴女と円滑に会うには書類を偽らなければいけないでしょう」

 高遠さんの言葉に頭を抱える。無茶をしないで欲しい。それは呟きになっていたらしく、高遠さんはフフ、と笑った。

「兎に角、成功したのだからいいでしょう。今日から私は遠山遙治。貴女のボディーガード、と言うことに警察ではなってますからよろしくお願いしますね」
「……じゃあ、よろしくお願いします、ボディーガードさん」

 にこり、と高遠さんを見上げて笑えば、高遠さんが私を抱きしめた。しばらくは一緒にいれそうだ、と嬉しくなる。ちなみに、帰ってきたヤマトは高遠さんを見て本気で驚いていた。ちょっとそれが可愛かったなんてヤマトには言えないが。