WhiteChapel Murder01


 目の前にいる存在になれたといえばなれたというか。
 複雑な気分になりながらも、アキの髪型を弄るその人物を見る。シンプルなパーティードレスに身を包んだアキは、髪型を高遠にいじられていた。

「さて、できましたよ。アキ」

 そう言ってアキの肩を叩いた高遠は、これまたシンプルなスーツに黒縁眼鏡をかけている。特徴的な黄色い瞳もカラーコンタクトで隠していた。今の瞳の色は深い緑色だ。他はあまり変わらないが、それだけでも、いや、立ち振る舞いを変えるだけでも雰囲気が変わるこの男は、正体を知らない限りは本当に気づかれないだろう。アキは高遠に、「ありがとうございます」と笑ってから立ち上がった。
 高遠にセッティングされたアキはモデルかというくらい綺麗な人の部類に入る。弟から見なくても、だ。高遠の選んだ白と真紅のパーティードレスに、黒いカーディガン。髪飾りは真っ赤な薔薇だ。なんという高遠チョイス。俺色に染まれとかそういう感じなのか。かくいう俺も高遠が選んだスーツに似た服を着ているし、高遠に髪型を弄られた。中身は大学院生であるのに自分でうまくできねーとか。不覚である。いや、高遠のスペックが高いだけかもしれないが。ジト目で見ていれば、高遠が視線に気づいたらしい。きょとんとした表情を浮かべた。

「どうかしましたか?坊っちゃん」
「うぇぇぇ、気持ち悪りぃ」
「ハッキリ言いますねぇ、君は。しかし、しばらく我慢してください。私は一応、アキさんが雇ったボディーガードなので」
「お前から守るためにお前を雇うって、本末顛倒だな」

 そう、何を思ったのか高遠はアキのボディーガード・遠山遙治として、ここ最近、この家に住み着いる。通報してやろうかとは思うが、アキが幸せそうなのでできず。アキはこいつが犯罪者だと理解しているんだろうか。してるんだろうな。

「さて、そろそろ会場へ向かいましょうか」
「そうですね、父と母も会場についてるかもしれません」
「車をまわしてきます。ヤマトくんとアキは家の前でまっていてください」
「車運転できたのか」
「車が運転ができないと、マジシャンのマネージャーはできませんよ」

 くつり、と笑った高遠にぞくりと背筋が冷える。触れてはいけない話題に触れてしまったらしい。慌ててアキの後ろへ隠れれば、アキが首をかしげた。

「どうしたんですか?」
「いえ、何もありませんよ。では、いってきます」

 出て行った高遠に息を吐く。やはり、侮っちゃダメだな、と眉をひそめた。アキといる様子を見ると忘れがちだが、アイツは殺人鬼だ。それも、バラバラ死体を用意したぐらいの。明智警視は天性の犯罪者といっていたけれど、そのとおりだとも思うわけで。
 暫くするとまた入ってきた高遠はアキをエスコートして車に連れて行く。俺は最後に出て、きちりと戸締りをしてから車に乗る。そして静かに車が動き出した。