WhiteChapel Murder02


 辿り着いた会場。近くにいたボーイに飯塚龍一の家族であると言えば、高遠とアキと俺は個室に通される。アキが数回ノックして、失礼しますと声をかけた。中からは母さんの声で「どーぞー」と聞こえる。アキが何処か緊張した様子で扉を開けた。中はやはりスイートルームのような部屋だった。奥の窓際に父親がいるのが見える。ソファから立ち上がって扉の方まで近づいてきた母さんはアキに抱きついた。

「アキー!約束通り連れてきてくれたのね」
「母さん、お酒くさいです。離してください」

 確かに酒を飲んでいたらしい。テーブルにはワイングラスが置かれ、顔がほんのり顔が朱色に染まっている。母さんは、「恥ずかしがらなくてもいいのよ」と笑いながらアキに絡み、アキは困惑したように固まっていた。

「アリス、やめてやれ」
「むぅ、いいじゃない、」

 近づいてきた父親は母さんにそう言うと、母さんは頬を膨らませた。こんなに母親は幼かったっけ、と戸惑う。酒がまわっているから、かもしれないが。父親は高遠をちらりと見て少し目を細めた。

「君がアキの恋人か。父親の飯塚龍一だ。こっちが妻のアリス」
「よろしくね、いつもアキをありがとう」
「いえ、そんな、」

 猫を被った高遠が首を左右に振った。その様子はあのマネージャーの時に似ている。確かに、醸し出す雰囲気は一番万人受けするだろう。金田一も騙されていたわけだし。それを苦笑いしながら見ていれば、アキが続いて口を開いた。

「こちらは、恋人の遠山遙治さんです。今はボディーガードをしてもらっています」
「いつもアキさんにはお世話になっています」

 そう言って手を差し出した高遠にそれに応じる父親。不敵に笑っているのは気のせいだろうか。

「いや、世話になっているのは此方だろう。アキが小さい頃から君には世話になっているからな」

 断定、である。父親が知らないはずのそれだ。アキが一瞬、顔を顰めた。高遠も一瞬動きを止める。それも当然で、アキは高遠の存在を両親に告げていないはずなのだ。しかし、アキの表情と高遠の一瞬の行動に目敏く気付いたらしい父親は、高遠の仮面を剥がしにかかる。

「俺もアリスもお前が指名手配中の犯罪者・高遠遙一であろうが、警察公認のボディーガード・遠山遙治であろうが交際を止めやしないさ」

 どの段階で気付いたのだろうか。くつくつと笑った父親に、高遠はスッと目を細める。

「なぜわかったんです、とは野暮な質問ですかね」
「普通は貴方が指名手配犯だなんて気づかないわよ。玲子ちゃんから貴方の事を聞いてたから、私達は貴方だと気づいただけよ」

 玲子、と言われた時、高遠が目を見開くのがわかった。困惑している、らしい。

「母と、知り合いだったんですか?」
「友達だったのわ。とても親しい、ね」

 ふふふ、と笑った母さんに、アキも困ったような表情をする。

「だから、貴方がどういう人であれ私達は信用するわ。玲子ちゃんの息子である限り、そして、アキのそばにいる限り」

 そう告げて微笑んだ母さんから高遠が目をそらした。なんだこいつ、と思ってそうだよな。アキが母親に何かを言おうとしたが、扉のノックが聞こえた為に止まる。母さんは「はーい」と間の抜けた返事をして近くにあったサングラスをかけて、父親はそばに置いてあった仮面をつけた。……仮面?

「飯塚先生、シンドラー社長がお待ちです」
「ああ、わかった。今から向かう。話はまた後だ。行くぞ、アリス」
「えぇ、行きましょう」

 「じゃあね」と言って部屋を出た2人に、俺とアキは顔を見合わせる。高遠が息を吐いたのをきっかけに俺達も動き出した。無駄に疲れた気がする。

「何者なんです?アキの両親は」
「私も知りません。近宮さんと知り合いだなんて、初めて聞きました」
「アキも両親の前で高遠の話は一回もしてねーしな。つーか、最後の仮面なんだよ」
「おや、知らないようですね。飯塚龍一は、マスコミ嫌いで有名ですよ。マスコミや人前に出る時はあの仮面をつけることで有名です」
「マスコミ嫌いねぇ……」

 逆に怪しくないか?と思いつつ、隣にいる高遠も仮面好きだったよな、と視線を移す。

「仮面をつけた登場人物ははえるでしょう?闇の男爵しかり、ファントムしかり」
「両方悪党だけどな」
「ええ、そうですね。理由がなければ顔は隠さないでしょう。……それにしても、アキやヤマトくんの目の色は母方の血でしたか」

 そう言って俺を見た高遠に首を傾げる。ヤマトくんの方が母親に近い色なんですね、と言った高遠に「アキは婆ちゃん似だからな」と言っておく。

「それより、さっさとパーティー行こうぜ、腹減った」

 俺がそう言った瞬間、「すいません」という言葉とノック音が聞こえ、高遠が返事をしてあけた。そこには、先ほどのボーイが立っていた。

「飯塚先生から、ご子息にこれを、と」
「バッジ、ですか?」
「はい、コクーン体験参加者のバッジです」

 高遠から経由して渡されたそれを眺める。丸い球体のようなバッジだ。
 やっとゲームに五体が入り込める技術が来たか!と内心ワクワクしている俺である。なんか引っかかる点もあるが、素直に楽しみだ。今度、金田一に自慢してやろ、と思いつつボーイと高遠を見上げる。まだ渡す物があるらしく、ボーイは高遠とアキをみた。

「後、お嬢様方にはこれを、と」
「別のバッジ、ですか」
「何処にでも入室できるバッジになります。後で管理室で落ち合おうかとメッセージが」
「管理室?」
「コクーンの管理室になります。場所は近くにいるボーイにお尋ねください」

 失礼します、と出て行ったボーイ。高遠とアキがバッジをつけた為、俺もつけた。アキが俺を見て、ニコっと笑う。

「良かったですね、ヤマト」
「おう」

 アキの言葉に機嫌よくそう返せば、高遠もクスリと笑った。

「ふふ、そうしていれば君は子供らしい……さて、行きましょうか。ボーイのあの慌てぶりからすれば、パーティーはもうすぐはじまる」

 アキの手をそっととった高遠に、アキがふわりと微笑んだ。
 ……リア充爆発しろ。むしろ、高遠爆発しろ。