WhiteChapel Murder05


 慣れない人混みに疲れてしまい、頭を少し抱えれば、高遠さんが私の手を引いて移動する。人がまだ少ない、ブロンズ像が置いてある近くまで来ると、高遠さんは通りがかったボーイにレモネードを頼んだ。

「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。久々に人混みに来たので疲れただけです」
「少し休憩しましょう。パーティーは長いようですし。それにしても、各界の著名人ばかりですね。警視副総監までいるとは……あぁ、大丈夫ですよ。彼は金田一君や明智警視とは違い間抜けのようですので」

 高遠さんが、彼よりはヤマト君やヤマト君の友人である眼鏡の少年の方が鋭いでしょうね、と言葉を零した。彼の視線の先はその副総監さんである。
 ボーイが持ってきたレモネードを受け取りつつ、確かにコナンくんは鋭いですよ、と告げると、彼はこちらを向いた。

「彼は何処か金田一君と同じ匂いがします」
「ヤマト曰く、名探偵だそうで」
「それはそれは……将来が楽しみだ」

 ふふ、と不敵に笑った高遠さんに、こちらも笑みを返す。嬉しそうで何より、と思う反面、捕まらないかが心配だ。捕まってもこの前のようにするりと脱獄をするかもしれないけれど。
 不意に会場の明かりが消える。それに顔を上げると、高遠さんはステージを見つめていた。どうやらステージで何かの発表――多分、コクーンと言われるゲームの発表がされるのだろう。高遠さんはステージから私に視線を戻し、口を開く。

「こういう不意に暗闇になる時は、何かと便利ですね」
「便利?」
「えぇ、いきなり暗くなれば人は目が見えるようになるまで時間がかかります。それに紛れれば様々なことができます。マジックでもよく使うでしょう?」
「そうよ、こういう風にね!」

 突然聞こえてきた声に、高遠さんと私は勢いよく振り向いた。そこにいたのはニコニコと笑みを浮かべた母である。それに息を吐いて、少し睨んでしまったのはしかたがないことだろう。

「母さん……」
「ふふふ、びっくりした? 龍一さんが呼んでるわ、一緒にいきましょ」
「龍一さんが?」
「いやねー、遙くん。お義父さんでいいのよ。私はお義母さんと呼んでちょうだい」
「……母さん、遠山さんを困らせないで」
「困らせてないわよ。ねぇ、遙くん」

 母の言葉に高遠さんは苦笑いを浮かべた。困らせてるじゃないか、と少し眉をひそめる。すると、そんな顔しないの、と声をかけられた。また明かりがつき、眩しくて瞬きをすれば高遠さんはふふと笑った。笑わなくてもいいのに、とむっとすれば「あまりにも可愛らしかったので」とよくわからないフォローをされる。

 ガシャン!という音がした。目の前にいた少年が蹴り上げたサッカーボールがブロンズ像にぶつかったらしい。ぶつかった際に飛ばされたナイフが此方に飛んでくる。咄嗟に身構えれば高遠さんがそれをやすやすとキャッチした。高遠さんが手袋をしてるとはいえ、危ないそれ。眉尻を下げれば、心配した高遠さんが口を開く。

「大丈夫ですか?アキ」
「ありがとうございます。びっくりしました」
「あらまぁ、あぶなかったわね。遙くんも怪我はない?」
「ええ、大丈夫です。このナイフは偽物のようなので……」

 チラリと高遠さんがサッカーボールをぶつけた少年達に目をやる。親か保護者だろう人たち――先ほどの警視副総監さんも含む人たち――が謝ってきたので、大丈夫だと首を左右にふる。母は笑みを浮かべたままだ。
 それにしても、こういう場合は親ではなく子供が謝るべきだと思うし、ここは外ではないのだからサッカーで遊ぶのはどうかとも思う。またもや、少し離れた場所でサッカーを始めた少年達に、高遠さんは息を吐いて怒りを逃したらしかった。母さんは「出る杭は何時か打たれるもんよ」と笑いながら、高遠さんの手からナイフを受け取り、ナイフを元あった場所に戻した。

「やれやれ、これでは日本の将来は危ぶまれますね。警視副総監の孫があんな風だとは、拍子抜けですよ。いっそのこと、アキとは海外で暮らしたほうがよさそうだ」
「え、」
「あら!それは素敵ね!」

 高遠さんの言葉に顔が真っ赤になるのを感じる。母さんもそんなに乗らないでほしい。本気ですよ、と耳元で言った高遠さんに恥ずかしくなって目線を逸らした。高遠さんも母も私の様子にクスクスと笑う。

「おや、アリスじゃないか」
「あら、さっきぶりね、優作くん。みっちゃんも息子くんも来てないのは残念だわ」

 ボーイとともに現れた工藤優作さんに、母は手を振る。ご丁寧に立ち止まってくれた工藤さんは、苦笑いをした。どうやらふたりとも用事が重なっていたらしい。工藤さんの息子。どんな人なんだろう。はじめちゃんみたいだったりして、と思ってみる。

「あ!紹介するわね。私の娘のアキと、将来の息子の遙くんよ」
「飯塚アキです。父と母がお世話になってます」
「遠山遙治です」

 ぺこり、と礼をすれば、同じく礼をした高遠さん。工藤さんはぱちりと瞬きして口を開いた。

「将来の息子、となると、アキさんの彼氏なのかな?」
「そうなの。このまま高校卒業を機にゴールインよ」
「母さん!変なこと言わないで!」
「僕はそのつもりなんだけどな」
「なっ、と、遠山さんも、へんなこと、いわないでください」

 顔を再び真赤に染めれば、工藤さんもくすくすと笑う。それに困惑して視線を地面に這わせていれば、高遠さんがすっと私の手をとった。そして、耳元で「本気ですよ」だなんて言葉を吐かれる。心の準備ができていない状態で、それはやめて欲しい。何も言葉を返せなくて、とりあえず高遠さんの手をぎゅっと握った。

「……工藤先生、そろそろ取材に」
「ああ、そうだったな。アリス、龍一は取材に?」
「でるとおもう?」
「……いや、でないな。そういう奴だった。では、私はこれで失礼するよ」

 そう言ってボーイに連れられ立ち去っていく工藤さんを見送ると、母さんは私と高遠さんを手招いて正反対の方向へ進みだす。高遠さんは私の手を握ったまま母について進み始めた。