WhiteChapel Murder08
光のゲートをくぐり抜けた先は、まさに19世紀の世界だった。ただよっている臭いに眉を潜める。スモッグ、だろう。おそらく。
急に悲鳴が聞こえ、そのままコナンとともに追いかける。見えた人影にコナンが不思議道具の一つである靴で缶を蹴りあげたが、たいした飛距離もでずにカランコロンと転がった。
「ここじゃ不思議道具も役に立たねーのな」
「そうみたいね」
「ああ、このメガネもアンテナは伸びるが、ただのメガネだし、時計もタダの時計になっちまってる」
「まぁ、それ使えたらチートだからな。変なバグが発生するよりいいだろ」
そんな会話をしていると、聞こえてきた英語の会話。
「なんて言ってるの?」
「ジャック・ザ・リッパーがでたっつってる。やばい、警察呼ばれるぜ」
「英語できたのか、ヤマト」
「ほどほどにな、アキほどじゃない」
コナンの問いかけに答える。まぁ、できるといえばできるのだが、大学入試ぐらいのそれである。しかし、俺がわかるのはクイーンズ・イングリッシュではなくアメリカ英語なので、些細な違いや意味の変革はわからないけれど。そのまま、いつの間にか英語から日本語へ変わっていくそれ。誰かが設定をいじくったらしかった。そのまま最初の場所に移動して、少し考える。
「大人が、外から設定をかえれるのか?」
「え?」
「日本語に変わったってことは、外で誰かが変更したってことだろ?ってことは、大人と通信できるんじゃないか?」
「――……聞こえるか、コナンくん!」
聞こえてきた声に、ほらな、と声をかける。博士の声いわく、ここでは警官に捕まったり、傷を追えばゲームオーバーらしい。しかし、そんな交信も次第に雑音が混じりはじめ、また、橋が崩れたために途切れることになった。まるでアクション映画だ。
「おい、まじかよ、」
ワンテンポ遅れた灰原の手を引いて、かける。しかし、ソレよりも遅れているらしい菊川を助けるため、とりあえず灰原を安全区域に押し込んで菊川の手を引いた。が、その反動で俺が落ちかけることになった。とりあえず、ダブルオーセブンよろしく瓦礫に捕まって落下を防ぐ。あぶねぇ、第一脱落者になるところだった。いや、まだ脱落者になる可能性は否めない。落ちたらアウトだろ、これ。
「ヤマト!」
「ヤマトくん!」
蘭さんとコナンにより引っ張られて救出され、助かった、と言葉をこぼした。これ、大人の蘭さんがいなければ俺は第一脱落者になっていた気がする。
「サンキュー」
「バーロー、またダブルオーセブンごっこやりやがって」
「ダブルオーセブンごっこだったら、俺はこんな無様な様を晒さねーよ」
コナンの言葉にそう軽口を叩く。ちなみに俺はダブルオーセブンではなくスパイ大作戦のほうが好きだ。まぁ、どっちも非現実的なんだけど。
「――どうやら、通信は途絶えたみたいだな」
「これからどうすればいいんです?」
「それなら、さっき、言ってただろ?レストレード博士に連絡だってな」
「レストレード警部?でも、あれは!」
「仮想世界と現実世界がまざってるんだよ」
「じゃ、じゃあ!」
「ああ、俺達のお助けキャラはシャーロック・ホームズがいるはずだぜ」
そういったコナンに喜ぶ少年探偵団。しかし、不意に、カラン、という音がなって静まり返った。誰かが缶を蹴った音だ。
「だれだ!」
コナンがそういって音の方を向く。俺達もあわててそちらを振り向けば、一人の女性がいた。
一人の、女性、というのは、言い間違いかもしれない。
「アキちゃん!?」
そう、そこには19世紀の洋服を身にまとったアキがいたのだから。ゆっくりと近づいてきたアキは、こちらを見て首を傾げる。
「アキちゃんがどうしてここに?」
蘭さんがそう言って近づくけれど、アキは再度首を傾げただけだ。そして、なにか言葉を紡ぐがそれは音にならず消えていく。
「もしかして、ゲームのキャラか?」
「どういうこと?」
「作ったのが、俺の父親ならありえるだろ。なぁ、お姉さんはなんていう名前なんだ」
そう言って女性に近づく。女性は俺に視線を合わすためにかがむと、先程よりゆっくりと唇を動かした。
「――」
「もしかして、喋れないんでしょうか、」
光彦の言葉に、女性は悲しそうに頷く。喋れない、らしい。
「でも、お姉さん、一人でこんなところにいたら危ないよ。ジャック・ザ・リッパーもいるんだし」
「――――」
「アリックス!どこにいるんです!」
聞こえてきた声に、俺の肩が跳ね上がる。この声は!まさか!!
「アリックス!」
「――」
呼ばれた声に振り向いた女性。俺達もおなじくそちらを見る。そこには、一人の男が立っていた。それなりの身分なのか整った服を着ている。そういえば、女性もそれなりに整った服を着ていた。どうやら、娼婦や貧民街にすむ人ではなさそうだ。
「アリックス!こんなとこにいたんですね」
「と、遠山さん!?」
「おや……?」
はい、近づいてきたその男はどう見ても高遠です。ありがとうございます。深緑の瞳ではあるものの、どう見ても高遠。男はこちらをみて、首を傾げる。
「君たちは……?アリックス、知り合いですか?」
「――――」
「子供の声が聞こえてここに来たんですか?まったく、ジャック・ザ・リッパーに会ったらどうするんです?」
「――」
「私がいるから、と言うのは理由にはなりませんよ。アリックス」
男の言葉に、アリックスと呼ばれた女性はショボンとした表情を見せた。
「それで、君たちは?子供が出歩く時間ではないですが」
「名乗るのは自分からだろ?」
「これは失礼!私の名は、アルバート、といいます。貴方達の身なりからして、貧困街の子供ではないでしょう?家に帰りなさい」
「えーと、僕たちは、その、」
「俺たち、ベイカーストリートからきたんだ」
光彦の口を手で塞いでそういうと、コナンも同調する。俺の言葉に、アルバートと名乗った男はきょとんとした表情を見せた。
「ベイカー・ストリート……あのシャーロック・ホームズがいるところですね」
「!――。――――、――――」
「アリックス、まったく君は子供に甘いですね。でも、君の言うことだ。仕方ありません」
二人の間ではどうやら会話が成立しているらしい。不思議なその光景に俺達は首を傾げるばかりだ。
「君たちをベイカー・ストリートまで馬車で送って差し上げましょう。可愛い私のアリックスの頼みです」
「え、いいのか!?」
「今回は特別、ですよ」
人好きの笑みをうかべたアルバート。喜ぶまわり。しかし、俺はそれが高遠にしか見えず、引きつった笑いをだした。