WhiteChapel Murder09


「さっきはありがとう、飯塚くん」
「ん?いや、気にすんなって!困ったときはお互い様だろ?」

 馬車がくるまで待つ間、お礼を行ってきた菊川に、わらいながらそう言う。少し落ち着いたらしい菊川は笑みを浮かべた。その後、日本の伝統芸能について話していたのはしかたない。いや、少年探偵団とはこんな話題できないし、コナンや灰原もお門違いだから、この話題を話せる人がいるのが嬉しいばかりだ。
 子供が多いだろうから、ということで大きな八人乗りの馬車に乗る。アルバートは金持ちかとおもえば、馬車の運転席に乗ったのでそうでもないのかもしれない。とりあえず、座るところがないからと俺とコナンはアルバートの隣に座っている。いわゆる運転席である。器用に馬車を走らせるアルバートに高遠はさすがにこんなことできねえよな、とアルバート=高遠説を打ち消した。きっとゲームキャラだ、うん。

「ねぇ、アルバートさん」
「はい、なんでしょうか」
「アリックスさんは、喋れないんだよね?」
「ええ、少し前に首元にケガをしてしまってね」
「でも、どうしてアルバートさんは、アリックスさんの言ってることがわかるの?」
「唇の動きをよんでいるんですよ。彼女との意思疎通はそれでしかできなくて」
「どういう関係なんだ?」
「アリックスは私の妻ですよ。――私にはもったいないくらいのね」

 ノンケのような言葉に、へぇ、と生返事を返す。コナンもその言葉に、アルバートは愛妻家だとわかったらしい。怪しむのをやめたようだった。

「おや、おかしいですね」
「どうしたんだよ」
「ビッグ・ベンの時計が狂っている……」

 すっと目を細めたアルバートに、俺達も時計塔に目を移す。時計塔の針はひとつ前に動いた。

「50から49……49から48……そうか、これは参加者の数だ!」
「さんかしゃ……?なんです、それは?」

 首を傾げたアルバートに、慌てて取り繕うコナンをジト目でみる。そして、考えはじめたコナンに首を傾げる。何かあったんだろうか。
 またしばらく馬車で揺られていると馬車が止まった。どうやら到着したようである。「つきましたよ」とアルバートが声をかけ、俺達はぞろぞろと馬車から降りた。

「残念ですが、ここでお別れです」
「ありがとうございました!」
「礼ならアリックスにいってください。私だけなら貴方達を馬車にのせようとはしませんでしたから」
「本当に、助かったよ、アルバートさん、アリックスさん」

 コナンの言葉にアリックスさんはゆるりと首を左右に振った。口元に浮かんだ笑みが、アキそっくりだった。やはり、父親がアキのデータを使ったのかもしれない。

「……アルバートさん、奥さんをお大事にね!」
「!ええ、大事にしますよ。私のかけがえのない宝物なんですからね」

 コナンの言い方は、何かひっかかるような言い方だ。俺がアルバートとコナンを見比べる。アルバートはまた運転席に乗ると、俺達に言葉を投げかけた。

「Good Luck、イレギュラーズのみなさん。またいつかお会いしましょう」

 クスリ、と笑って目を細めたアルバートに俺は目を見開いた。そして、捨てたはずの考えが蘇る。まさか、いやでも。俺が迷っている間に馬車は動き出してしまった。

「イレギュラーズってなに?」
「そうか、あの人は俺達の事をベイカー・ストリート・イレギュラーズと間違えてるんだ」
「なんだよそれ?」
「ホームズさんが雇った浮浪者の子どもたちのことよ」
「少年探偵団の先輩ってことですね、」
「そういうこと」
「……間違われてんなら、それをそのまま使ったほうがいいよな」

 頭を無理やり切り替えて、扉をノックする。でてきたのは、婦人とよべる女性だった。