WhiteChapel Murder11


 ダウンタウンのトランプクラブへついた。コナンと一緒に中へ忍び込めば、やはりいたアルバートとアリックス。アリックスは静かに椅子に座り佇んでいて、アルバートは無表情にポーカーを眺めている。すこしアリックスが居心地が悪そうなのはしかたがないんだろう。ふと、アリックスが近くにいた猿を見つめた。目がキラキラしている気がする。そういやアキも、こういう小動物すきだよな、とおもっていれば、アルバートがチラリとこちらをみた。

「やべ」

 小さくそういってコナンと二人で隠れる。そしてまたそっと顔を出せば、アルバートは口元に笑みを浮かべていた。不敵な笑い方。どこか、愉悦したような。高遠の笑い方にそっくりだ。アルバートはこちらになにか言うつもりはないらしい。視線を逸らして、アリックスを見た。

「アリー、ちょっかいを出してはいけませんよ」
「――」

 ふい、っと顔を背けたアリックスはそのまま俺達を見つけたらしい。顔を少ししかめた。

「アリー、」
「――――」
「ええ、そうですね」
「ヴィクター、しゃべるな。気が散る」
「これは失礼」

 そう言ったアルバートはつまらなそうにテーブルを見た。アリックスは困惑顔だ。ヴィクター、ということは間違いなくあのアルバートが、アルバート・ヴィクターなんだろう。

「どうだ、メガネ、飯塚。なんかわかったか?」
「どうしてここに?」
「手柄を二人で分けようとしても、そうはいかないぜ」

 聞こえてきた声に、俺とコナンは顔を合わせる。もちろんそんなことは考えていない。まぁ、でも、普通に考えたらそうだよな、だなんて。

「ストレート」
「わるいな、フラッシュだ」

 どうやらポーカーはモラン大佐が勝利したらしい。それもそうだろう、イカサマしてるんだから。おそらくアルバートは気づいている。だから、アリックスにあの猿に触らないようにつげたのだ。コナンが諸星達にいかさまについて説明する。すると、諸星が「イカサマだ!」と騒いで飛び出した。正義感が強いのはいいが、それはどうしたものかと思うわけで。後先考えろ。
 アルバートが現れた諸星に「やれやれ」といった感じでため息を付いたのが見えた。アリックスも顔をしかめている。コナンから聞いたままをいう諸星に、アルバートはモラン大佐をみた。

「子供に見破られてはわけがありませんね」
「黙れ、アルバート!」
「アルバート!貴様も共犯か!」
「共犯だなんて、ひどいですね。私は気づいていたが、黙っていただけですよ」
「おっと!身内争いは後にしてもらおうか」

 そう言って銃を構えた諸星に、俺は息を呑む。馬鹿か!あいつは!!

「モリアーティーってやつはどこにいる?」
「小僧、どこであのお方の名前を!!」
「な、く、くるな!」

 近づいてきたモラン大佐にあわてた諸星は銃の引き金を引く。発泡された銃をモラン大佐の肩にかすった。アルバートがアリックスを背に隠し、その奥にいた男がワインを持った。……ワイン?

「ガキどもを捕まえろ!!」

 その掛け声と共に、大人がこちらを襲ってくる。慌ててコナンとよければ、敵味方総乱れとなっていた。おい、これってやばいだろ。これじゃ、俺達が偵察に来た意味ないっての。

「おいおい、全員参加じゃねーか」

 そうつぶやいたコナンを背に、ちらりとアリックスとアルバートを見る。二人がこちらを襲う感じはない。

「危ない!コナン君!ヤマト君!!」

 菊川の言葉に、俺とコナンが身構える、が。衝撃は来なかった。振り上げられた瓶は花びらとして消える。俺がゆっくり目をひらくと、そこにはアルバートが立っていた。男にはナイフが突き刺さっている。

「ど、どうして、」
「ケガをしたくなければ、動かないことです」

 そういったアルバートは、残りの大人を片付けていく。唖然、としていたのは俺たちだけではなく、モラン大佐達もだったらしい。はっとしたモラン大佐は近くにいたアリックスを掴んだ。

「どういうことだ!アルバート!恩を忘れたか!」

 アリックスのこめかみに拳銃を当てたモラン大佐にアルバートは「やれやれ」と息を吐いた。

「貴方から恩を買った覚えはありませんよ、モラン大佐」
「貴様!シャーロック・ホームズの手下に成り下がったか!」
「ほう、なぜそう思うんです?」
「お前が庇った小僧達が持っていたこの銃はホームズのものだからな……!」
「……あいにく私は彼のような探偵とは平行線でしてね。手下になった気はありませんよ。ただ、この子たちとは顔見知りでね」

 そう言って口端を上げたアルバートに、俺はため息を付いた。やっぱり、コイツは。なら、きっと、アリックスもそうなんだろう。

「アリックスを離しなさい」
「ふざけるな!コチラが有利だとわからないわけでもあるまい!」
「そうですね、あなたがアリックスを撃てば、私はワインを割りますが」
「っ、」

 その言葉に、モラン大佐が眉をひそた。そして引き金を――。

「アリックスさんをはなせー!!」

 そう叫んだのは少年探偵団の三人だ。三人はモラン大佐に突撃すると、モラン大佐はバランスを崩し、アリックスから手を離した。その瞬間を見計らったのか、コナンがアリックスの手を引きモラン大佐から距離を取る。怒ったモラン大佐が再び銃を構えるのをみて、俺は近くにいた男からワインをぶんどって二人の前に庇い出た。

「俺たちを撃ったら大事なワインが割れるぜ?」
「……っ、そんなワインなど、」
「そのワイン。一つだけ豪華な椅子の前に置かれてた。しかも、この乱闘がはじまってすぐ、男の人がコレを守るように動いた。それに、今のアルバートさんの台詞。そこから推理するに……」
「このワインは、モリアーティ教授のものってこと。いいのか?大事な大事なワインが割れるけど」
「くそ!!」

 モラン大佐が悔しそうに地団駄を踏んだ。不意に、カランと音が鳴り扉が開いた。一同がそちらへむけば、シルクハットを深く被った男がいた。

「貴方はっ!」
「ヴィクター様、アリックス様、モリアーティ様が馬車でお待ちです。」
「……呼ばれては仕方ありませんね、行きましょうか。アリックス」
「――」
「なに、大丈夫ですよ」

 そう言って、アルバートがアリックスの手を取った。アリックスが困った顔をしている。

「……!あぶない!アルバートさん!アリックスさん!」
「なにを――」

 不意にコナンが叫び、アルバートの動きを制した。コナンの声に止まったアルバートは勢いよくアリックスの手を引く。
 パン、と乾いた音がなった。モラン大佐が発砲したようだった。

「貴様のせいだ!アルバートめ!誰のお陰でアリックスを手に入れられたと思っている!」
「貴方のお陰、ではない。そうつけあがるから、子供相手に失態を犯すんですよ」
「っ!」
「――、――――」
「……アリックス、それは教授が許すかどうか……」
「――――――」

 アリックスはモリアーティ教授の徒者だろう男に何かを告げた。徒者だろう男は少し口元に笑みを浮かべて口を開く。

「えぇ、構いませんよ。勇敢なるイレギュラーズ様達も教授にお会いさせましょう」

 こいつ、アリックスの唇を読み取ったのか? 目を細めて徒者を見る。喜ぶ周りを置いて、彼を見つめた。
 徒者の男は、くるりと背を向けて扉から立ち去ろうとする。その瞬間に、モラン大佐が「お待ちください!」と声をかけた。敬語、である。いつも敬語のアルバートならともかく、あのモラン大佐がだ。

「これ以上、モリアーティ教授を失望させる気ですか?」
「っ、」

 徒者の一言に押し黙ったモラン大佐。それを見て徒者はこのトランプハウスを後にした。