WhiteChapel Murder12



 トランプハウスを出れば、そこには一台の馬車が止まっていた。奥には一人の男が座っているのが見える。アルバートが彼をすっと目を細めて見、そして徒者に目を落とした。

「――さて、アルバートにも言いたいことはあるが、先にそちらの言うことを聞こうか。いや、ワインを先に貰うとしよう」

 徒者が受け取りに来たのでワインを渡す。ふわりと香った匂いに、コナンと目を合わせた。

「ねぇ、おじさんって本当にモリアーティ教授?」
「ちょっと、コナンくん!?何を言ってるの!?」
「……いかにも私がモリアーティ教授だ」
「試してるんだな、俺たちを」

 俺が零した言葉は思ったより響いた。

「何故そう思うんです?」

 そう尋ねたアルバートの目は楽しそうである。そういや、トランプハウスを出てからアリックスはアルバートの後ろだ。モリアーティ教授が苦手なんだろうか、と違うことを考えてみる。

「だって、モラン大佐がこっちのおじさんに敬語を使ってたもん」
「そっか!モラン大佐が敬語を使うってことは、こっちのおじさんがモラン大佐より目上だってことですね!」
「それだけですか?」

 コナンの解答に光彦が付け足す。アルバートがまた口を挟んだ。

「後、僕達、ホームズさんからモリアーティ教授は天然ハーブ系のコロンを使うおしゃれな人だって聞いてたんだ!」
「俺がワインを渡すときにそれが香ったんだよ。徒者がコロンなんてもんつけねーしな。大方、腹話術かなんかで喋ってるんだろうけど」
「……だ、そうですよ。教授」

 アルバートの言葉に、徒者が面白そうに笑った。

「アリックスの目の付け所は非常にいい。面白い少年達だ」

 徒者はシルクハットをとる。そこにいたのは、髪がグレーとなった父親である。固まったのは仕方がない。そういえば、ホームズとワトソン博士は工藤優作とアガサ博士だったな、遊んでやがるだなんて思いながら、アルバート達を見た。もしかして、こいつらも遊びか。いや、でも、行動を考えると――。

「――?」

 俺の視線に気づいたらしいアリックスが何かを言った。どうしたの?的なことだろう。俺が首を左右に振ると、アリックスは笑みを浮かべて俺の手をとった。……びびってると思われてるんだろうか。苦笑いしつつ、会話をするコナンとモリアーティ教授をみる。どうやら、やはり、ジャック・ザ・リッパーはモリアーティ教授が作り上げたものらしい。しかし、暴走をしている、と。

「もし彼が私を忘れていなければ指示には従うだろう。明日の朝刊に指示をのせよう」
「誰を殺すの?」
「明日の朝刊のお楽しみだ」

 フッと笑ったモリアーティ教授はまさしく父親だ。おれはそれをジト目でみており、アリックスは眉を顰めていた。

「アルバートとアリックスはホームズに協力する気かね?」

 不意に話題が二人にうつる。アリックスが顔をしかめた。苦手、なんだろう。

「ええ、私もジャック・ザ・リッパーに少し恨みがありますがね」
「未だにアリックスを傷物にしたことを恨んでいるのか」
「ええ、もちろん。そのせいでアリックスの麗しい声を私は聞くことができなくなった」

 アルバートの言葉に、アリックスを連れ去ったのがジャック・ザ・リッパーだと知る。そのせいで、声がでないらしい。

「だが、君は私に告げたはずだ。『アレキサンドラ王女の死体でもいい』とな」
「……貴方には感謝していますよ、モリアーティ教授。貴方がいなければ、私は永遠に彼女を手に入れることはできなかった。それに貴方は私に新しい地位をくれた――しかし、これとそれとは話が別です」
「……」

 なるほど。アルバートはアレキサンドラ王女を手に入れるために、モリアーティ教授に頼んだのだ。死体でもいい、とはすこしぞっとするが。どこの白雪姫だ。そして、モリアーティ教授はアルバートに新しい地位を与えた。なんの地位かはわからないが、彼は王族の地位を捨てたらしい。

「貴方の指示には従いますよ。でも、私は彼に恨みがある。そして、貴方は暴走した彼を鬱陶しく思い始めている。憂いは晴らす他にないでしょう?」
「ふっ、たしかにそうかもしれん。ならば、こうしようか」

 面白そうに笑ったモリアーティ教授に、コナンが顔を歪めた。

「アルバート、君がこの少年たちより先にジャックを捕まえた時は処分してくれたまえ」
「なっ!」
「……畏まりました。貴方の指示に従いましょう」
「アルバートさん!!」
「しかし、その代わり、私やアリックスが彼らに協力しても黙認してほしいところです」
「いいだろう。君には期待しているよ、アルバート・ヴィクター」

 そう言って馬車に乗り込んだモリアーティ教授はチラリとアリックスをみた。アリックスは慌ててアルバートの背後に隠れたが。走り去る馬車を見つつ、俺はアリックスとアルバートを見上げる。

「な、なんで了承したんだよ!お前!」
「その方が君たちと行動がしやすいでしょう」

 そう告げたアルバートに、眉間に皺を寄せる。

「――さて、今日は夜が遅い。幸い、私とアリックスの家は近くだ。泊まって行きなさい」
「え、でも、」

 戸惑った蘭さんに、アリックスがにこりと笑みを浮かべる。そして、俺から手を離して蘭さんの手をとった。そして、なにか告げる。

「なんて言ってんだ?」
「ここからの角度じゃ見えませんでしたね。多分ですが、同い年ぐらいの少女がいて嬉しいんですよ」

 諸星の言葉に、アルバートが答える。そして、「別に貴方達を殺そうだなんて思ってませんよ。アリックスが気に入っているのだから」とご丁寧に説明してくれた。なるほど、アリックスが気に入っていなければ殺されてたのか。