WhiteChapel Murder15
ビッグ・ベンの時計の針が、11を指している。ということは、ここにいる俺たち以外はみんなゲームオーバーになっているらしかった。
「すいません、おくれてしまいました」
そういって悠々とオペラ劇場前に現れた高遠に、アキは安堵の溜息をはいた。高遠の手にはなぜか花束だ。そして、高遠の服をちょこんと握る。
「おや、どうしました?」
「遠山さんが心配だったみたい。朝の新聞読んだ?」
「読んでなければここに来ませんよ。どうやら、私もアキも狙われる立場になってしまったようで」
そうため息を付いてキャスケット帽を深くかぶった高遠に「この兄さん余裕だな」と諸星が呆れているのが聞こえた。確かに余裕綽々としている。
「さぁ、いきましょうか」
「どうやって入るんです?チケットもないし……」
「裏口から入れば、アイリーン・アドラーに直接会えるでしょう」
そう告げて進んでいく高遠とアキにあわててコチラが追いかける。
なんでコイツこんな堂々と裏口から入るんだ。……そういやコイツは犯罪者だった。そんな会話を脳内でしていれば、いつからかコナンが花束をもっていたらしい。俺たちを遮るように立った男に、コナンはきょとんとした表情で見上げた。
「こら!ここは関係者以外立入禁止だぞ!」
「すいません、ホームズ先生からアイリーン女史に花束を頼まれまして。それに合わせて舞台の激励を」
そう告げた高遠に、男は「彼女の知り合いかね!それに、あの、ホームズの!」と嬉しそうにいった。そのまま、ポスターの部屋に向かうように指示される。
「お前、何事でもないようにウソを付くよな」
「堂々としていれば嘘だとばれませんからね。私は生憎騙すのが得意ですし」
俺の言葉にそう返した高遠を見た。となりで諸星が「どういうことだよ」といったのが聞こえ、「あいつマジック好きだからな」と答えておく。
「ここだ」
コナンが立ち止まった先には確かにポスターがはられていた。
「ミュシャの作品ですね」
「ミュシャ?」
「この時代を代表する芸術家ですよ。……まぁ、イギリスよりフランスで活動していたはずですが」
高遠はそう言って数回ノックをする。どうぞ、との言葉に、コナンが部屋へ入った。そこにいたのは、一人の女性だ。確かに美人だ。きれいな人だ。隣のコナンががっくりと来ているのを見ると、これが工藤有希子らしい。いや、アイリーン女史らしい。
「新一のお母さん!」
「失礼ね!私はまだ独身よ。……まぁ、一回離婚してしまってるんだけどね」
そう言った彼女に、コナンが「ホームズさんからの花束です」と彼女に渡す。そして、ホームズさんは?と首を傾げた彼女に、蘭さんが来れないことを告げた。残念ねぇとのほほんとしながら告げた彼女に、コナンが口を開く。
「今夜の舞台は中止してください!!」
「え?」
「ホームズさんの宿敵、モリアーティが貴方に殺し屋を差し向けたんです」
コナンの言葉にものほほんとしている彼女はまさに大物なのかもしれない。蘭さんの言葉にも、「みなさんが守ってくれるんでしょ?ホームズさんの代わりに」とだけ告げた。
「肝が座ってますね。さすが大女優、というところでしょうか」
「肝が座ってるな、この女」
小さく高遠がこぼした言葉と、諸星がコナンに言った言葉。両方聞こえていたんだろうコナンが項垂れた。お前、工藤新一だってバレるぞ、蘭さんに。