WhiteChapel Murder19
登った列車の上には、やはりジャック・ザ・リッパーがいた。アキが縄でグルグルと巻かれた状態で、横たわっている。縄の先には、ジャック・ザ・リッパーだ。高遠は何処からかナイフを取り出すとくるりと回転させた。
「なるほど、貴方が落ちればアキも落ちるわけですね」
「ああ、そのとおりだよ!」
ちらり、と高遠がアキを見る。アキはなにかを言っているようだ。
「ジャック・ザ・リッパー、お前は何を望んでいるんだ!」
「何?」
「母親への恨みを晴らした今、何を望む!?」
コナンの問いかけに、ジャック・ザ・リッパーは即座に答える。
「生き続けることだ!俺に流れている凶悪な血をノアの方舟に乗せて次の世代へとな!」
「……それは素敵な考えですね。すこしばかり同感しますよ、血というものは偉大ですから。貴方の子孫が同じ過ちを繰り返さないことを祈りましょうか」
その言葉を皮切りに向かってきたジャック・ザ・リッパー。高遠はそれを避けるとこんどはナイフで受け止める。
「すこしはできるようだな」
「おや、切り裂きジャックに褒められるとは。感激ですね」
ジャック・ザ・リッパーと高遠が少し距離を取る。そのやりとりを数回繰り返した後、何を思ったのかジャック・ザ・リッパーは俺達のいる方へやって来た。高遠が顔をしかめて俺たちを庇う。
グサリ。
おとにして、まさにそれ。ジャック・ザ・リッパーの凶器は高遠の腹部に刺さった。高遠は手で腹部を抑えた。俺たちは高遠の周りに群がる。
「遠山さん!」
「終わりのようだな!あとはあの女を――」
そう言って背を向けたジャック・ザ・リッパーに高遠がくすりと笑って、何もなかったように立ち上がった。
「へ、」
俺達が間抜けな表情で見上げると、高遠は平然とした様子で彼に声をかける。
「終わってませんよ」
「何?」
高遠が腹部から手を離した。そこには、真紅の薔薇があるだけだ。薔薇が風で散る。それを見たジャック・ザ・リッパーが唖然としていた。
「今度は私の番です、ジャック・ザ・リッパー」
「なんだと……?」
「血のように赤い薔薇をどうぞ」
ジャック・ザ・リッパーの右足の太ももあたりに薔薇が刺さっていた。白いばらが真紅に染まっていく。そして、その薔薇が散るとそこにはナイフが刺さっていた。うずくまったジャック・ザ・リッパーに高遠は、「ヤマト君達に感謝するべきですね。彼らがいなければ、貴方は死んでいるのだから」と言葉を吐く。そのまま高遠ははジャック・ザ・リッパーのよこを通りぬけ、アキに手を伸ばす。
「あぶない!!」
不意に、立ち上がったジャック・ザ・リッパーがまたナイフを高遠に振り落としかけた。しかし、ソレよりも早く、アキが行動を起こす。
「なっ、」
そう、ジャック・ザ・リッパーを下に突き落とした。叫びながら消えていったジャック・ザ・リッパー。スルスルと落下していく縄。心配する二人をよそに、俺は頭を抱える。
今思えば、そうだよなぁ。アキだってマジックが使えるわけで。縄といえば、脱出マジックでお馴染みなわけで。縄はするするとアキのからだから抜けていく。
「縄は脱出マジックの基本、だよなぁ」
「はぁ!?マジック!?」
諸星の言葉に、俺は「あの二人マジック好きだから」と告げる。コナンは安堵の溜息を履いていた。
「――おや、」
不意に、高遠が自分の体をみて声を出した。なんだ、と思っていれば、高遠とアキの体が透き通っていく。三人で目を見開けば、ああ、なるほど、と高遠が言葉をこぼした。
「ジャック・ザ・リッパーが消えてしまった今、もう、サポートキャラは必要ありませんね」
「はぁ!?でも、」
「――最後に一つだけ。後十分ほどで終点のキングクロス駅へ到着します。きっと乗務員もいませんし、スピードも上がっている。ここまでくれば、君たちにはわかりますね」
「どういう――」
「では、アキ、最後には思い切って落ちてみますか?走っている列車から飛び降りるなんて、いい経験ですよ」
「――――?」
アキをお姫様抱っこすると、高遠は車両の端に立った。俺達はソレを眺める。
「――では、GoodLuck、少年たち。なかなか楽しめるゲームでしたよ」
「え、」
「おい!?」
列車から落ちていった二人は、すぐさま残像となって消える。俺達は顔を見合わせた。
「――おい、どうする?コナン」
「コナンくん!ヤマト君!諸星君!」
聞こえてきた声に、俺達はそちらを向く。そこには蘭さんに灰原、歩美ちゃんに菊川がいた。
「アキちゃん達は!?」
「消えちゃったぜ」
「そんな、」
「蘭姉ちゃん、乗客は他にいた?!」
「いなかったわ!」
「それどころか、エンジンに石炭が山ほど入れられてる。スピードは上がり続けるばかりよ」
「後十分でキングスクロス駅……」
その言葉に、コナンが「車両を切り離そう!」と提案する。
全員で一度下に降りると、車両の連結部分へ向かう。がしゃん!と車両を切り離そうとするが、なかなか切り離されないソレ。列車は橋を渡り始める。
「大変!!もうキングスクロス駅よ!!」
「全員でやるぞ!!せーの!」
ガンっという音と共に車両が離れる。切り離された先、離れていく列車は、大きな駅へと向かっていく。そして、おおきな破壊音が鳴り響いた。
「終わっちゃった、」
誰かが小さくこぼした言葉。ソレとともに、俺達の意識は闇へと沈んだ。