白の奇術師、昼の開墾


「――さて、今日はもうおかえりなさい。怖い怪人が現れる前に、お母さんが待つ家へ」

 にこり、と仮面の下で笑みを浮かべる。高遠さんが勧めてくれたマジックの練習方法であるこの大道芸は、ある意味習慣になった。
 ベージュのズボンに白いシャツ、黒いベストを着て、ハンチング帽に仮面をつけて。高遠さんになぞるようなそれである。声も彼に似るように変えているのだから、知り合いの誰が通っても私だとは気づかないだろう。そう、私にやるようにいった高遠さん以外は。
 私の言葉に、またね、とかけていく子供が可愛らしい。去っていく子供からベンチの方へ目を向ければ、私と同い年ぐらいの少年が目をキラキラさせといた。年の割に、目を輝かせる彼は可愛いらしいといえば可愛いのだが、些か面白く見えるのは仕方がない。ヤマトが年を重ねればこうなるのかもしれない。

「――君も物好きですね、ここ最近毎週くるじゃないですか」

 ハンチング帽を深くかぶってため息をつく。彼はニカリと笑みを浮かべて口を開いた。

「いやぁ、だって、すげーんだもん!タダでプロのマジックなんてそうみれっかよ!」
「……おや、私はまだ修行中なのでプロではないのですが」
「そうなのか?」
「ええ、この大道芸も師匠からやるようにと言われまして」
「へぇ、その師匠のマジックも見てみたいなぁ。なぁなぁ、アンタ、なんて言う名前なんだ?本名でやってんの?それとも、ステージネーム?」
「まだまだ、名乗るほどではないですよ」

 片付け片手にそう答えれば、少年はえー、と顔をむっとさせた。前言撤回。ヤマトよりははじめちゃんに似ているかもしれない。

 ――はじめちゃんと言えば、今はどこにいるんだろうか。ヤマトと二人五百円寄付をして、旅に出ていたけど。私が高遠さんに送るように指示された手紙を片手に。彼はやはり、正義感の塊なんだろう。今日もまたどこかで事件を食い止めたり、事件を解き明かしたりしているに違いない。

 そんなことを考えていれば、先程の少年が近くまで寄ってきていた。気配を消すのがお上手なことで。とりあえず、笑みを浮かべておく。まぁ、仮面をつけているからあまり意味がないのだけど。

「みたとこ、同い年ぐらいだし、名前教えてくれよ。俺もマジック修行してんだ。なんか色々マジックの話しようぜ!」
「……しかた、ありませんね」

 マジックの話ができるのはいいことだろう。だって、そんな話をできるのは高遠さんぐらいでできる人は少ない。ヤマトも話せるが、専門的な分野までは話せないからだ。ヤマトにとってマジックは解き明かしたくないものらしい。
 私が仮面を外し、彼を見る。彼が、「あ、」という声を出した。おや、もしかして、どこかでお会いしましたか?と告げれば、首を左右に振られる。地声に戻してもいいかと、声を戻して口を開く。

「……私の名前はアキ。飯塚アキと言います」
「俺は黒羽快斗。え、と、いうか、声!」
「ふふふ、腹話術も声帯模写もすばらしいマジシャンには必要不可欠でしょう?」

 そう言ってクスリと笑えば、快斗君はどこか戸惑ったようだった。

「おー……まぁ、よろしくな!えっと、アキ、でいいか?」
「ええ、快斗くん、でいいのかな?」

 ああ、いけない。別の仮面をつけるのをわすれていた、と猫をかぶる。ふにゃり、と笑えば、彼も笑んだ。ああ、そう言えば。

「快斗くんは、黒羽盗一と何か関係があるの?」
「え、なんでわかったんだ?」
「黒羽でマジシャン、と言えば黒羽盗一でしょう?近宮玲子と日本で一、二を争ったマジシャン。苗字が同じだったので、連想的に」
「よくわかったなぁ……そ、俺は黒羽盗一の息子!」

 そう言って笑った快斗くんに私も笑みを浮かべる。
 さて、私はどうやらマジシャンの息子と関わりが強いらしい。まぁ、かたや犯罪者なのだけど。そんなことを思いながら、ラインのアカウントを交換する。今日はもう時間が時間だから、と別れた。

 彼の様子を見るに、私とどこかであっているようなのだが――。

「記憶にないんですよね」

 家に帰って、ヤマトと二人並んで料理をする。小さくそう零せば、ヤマトが首をかしげた。

「どうしたんだ?アキ」
「いえ、今日新しく知り合った方がいるんですが、その方がどこかであっているような気がして」
「へぇ、どんな奴だよ?」
「黒羽快斗、という私と同い年の男の子ですよ」

 そうヤマトに告げれば、ヤマトは目を見開いた。うん?ヤマトは彼を知ってるようだ。

「……なんか、アキって、奇術師ホイホイだよな」
「?奇術師は高遠さんだけでは?」

 くびをかしげれば、彼は苦笑いをした。なんだろうか? でも、教えてくれる気はないらしい。そのまま話題は別のものへと移る。奇術師といえば、高遠さんはまだ帰ってこないんだろうか。