大海の奇跡01


「はぁ」

 深く深くため息をついた園子嬢にアキと二人苦笑いを浮かべた。園子嬢が観たいと言っていた映画を観終わった後の話である。
 今日、俺とアキは園子嬢と蘭さんに映画を観に行かないかと誘われた。有名な泥棒映画の第二弾である。俺もこの映画のパート1が好きで、楽しみにしていたのだが、内容が期待していただけにちょっと肩透かしだった。非常に残念である。園子嬢の気持ちはよくよくわかる。アキはなんとも思っていないからか、パンフレットをパラパラと流し見していた。アキが好きそうな内容の映画ではないもんな、と思いながら会話する園子嬢と蘭さんを見る。それなりじゃダメなの、といった園子嬢に心のなかで賛同しておいた。

「あー!何処かで起こってくれないかなぁ。心臓の鼓動で周りの音が消えてしまうような、華麗で大胆なとびっきりの大事件が!ねぇ、アキちゃんもそう思わない?」
「……そうだね、華麗な事件には遭遇してみたいな」

 急に話しかけられたので驚いたらいしい。ちょっと間を置いて、アキは、にこり、と笑って同意した。俺はソレを見て乾いた笑いを浮かべる。
 双方、頭の中にある事件は全く違うものに違いない。かたや、怪盗の事件、かたや、ぐろい殺人事件であ。いや、アキにいたっては、事件に巻き込まれたいというかは、犯罪芸術家に会いたいだけだろう。俺的にはあわなくていいのだが。
 そんなことを考えていると、園子嬢が短く悲鳴をあげた。

「ひっ、ひったくり!?」

 園子嬢のバッグを持って走り出した男。まさしくひったくりである。追いかけ始めた俺たち、先頭の蘭さんに並び、アキが走る。

「アキちゃん?!」
「すこし、時間を稼ぎますね。その間に、蘭さんが取り押さえてください」

 アキはそう言うと、何処からか薔薇を取り出し――男に投げた。
 男の肩に刺さったように見えるそれ、アキが糸か何か――と言っても見えないそれだが――を手前に引く動作をすれば、男はアキによって手前に引かれたようにバランスを崩した。その瞬間である。

「行け!ルパン!!」

 バイクに乗ったおっさんの言葉に、犬がその男に飛びかかったのは。か、かっこいい。
 犬により取り押さえられた男に、アキはキョトンとしながらそれに近づく。蘭さんが警察を呼ぶのと同時に、アキはそのおっさんに近づいた。

「この薔薇はお嬢さんのかの?」
「ええ、」

 アキが指を鳴らせば散ってしまった薔薇に、おっさんがキョトンとして、盛大に笑った。

「お嬢さんはマジシャンか!」
「修行中ですが……」
「しかし、相当な腕とみえる。将来が楽しみじゃのう!」
「ありがとうございます」

 アキが笑みを浮かべて礼を言う。そして、そのまま隣にいた犬に目をうつした。

「よく躾けられて可愛いワンちゃんですね、触ってもいいですか?」
「構わんよ!」
「ヤマト、 触ってもいいそうですよ」

 アキに手招きされ、内心でガッツポーズを決める。犬に近づけば、おすわりをした状態でいた。か、可愛い。さっきはカッコ良かったくせに、なんだこいつ。よろしい、もふもふしてやろう。それからしばらく、もふもふと犬を撫でたり抱きついたりをしていたら、コナンに生ぬるい目で見られた。いいじゃねぇか。犬、好きなんだよ。外見小1が犬に構って何が悪い。遅れてやってきた園子嬢がおっさんを見て口を開く。様子を見るに、どうやら、知り合いらしい。

「次郎吉おじさまじゃない!?」
「おお!史郎んトコの娘っ子かー!!七五三の時以来じゃのぉ!」
「園子ちゃん、知り合い?」
「うん!この人はわたしのパパのイトコで、鈴木財閥相談役の鈴木次郎吉おじさまよ!」
「は、はじめまして!」
「はじめまして、何時も園子ちゃんにはお世話になってます」

 ぺこり、とアキが礼をすれば、かしこまらんでもいい、との言葉がきた。アキは顔を上げて、そして何かを考えるそぶりをし、手をポンっと叩いた。

「鈴木次郎吉さん、といえば、人力飛行機世界一周をされた方ですね。確かその他にもたくさんの功績がある……」
「おぉ、そうじゃ。まさしく儂じゃよ!お嬢さんは知っておったか」
「次郎吉おじさまってば、いろんなことをしに世界中飛び回ってるの。そういえば、半年前から海外へ行ってるって……」
「つい先週帰ってきたんじゃ……世界中を巡り巡ってやっと見つけたから舞い戻ってきたんじゃよ……最高の餌をな」

 餌?俺たちが首を傾げる。餌、とは。
 みせてやろう、と上機嫌なおっさん――次郎吉さんに俺とアキは顔を見合わせた。