飯塚弟と自由研究(1)



 外はむせかえるような暑さである。下手をしなくても自分の体温より高い外気温だ。テレビではしきりに今年の夏の暑さを訴えて、どこかの最高気温が更新されたのだの、涼しくなるためにどこぞで打ち水をしているだのというニュースを伝えていた。
 そんな中、俺は涼しい室内で目の前に広がったものを眺めている。夏休み中の学生には付きものである――夏休みの宿題だ。内容は当たり前だが小学校一年生レベル。算数と漢字の書き取り、読書感想文、朝顔の観察日記にあとは自由研究と絵日記だ。算数と漢字の書き取りはもう終わったし、朝顔の観察日記は毎朝早く起きてアキ付き添いの元世話をしている。植物の知識がないため、俺一人では枯らしかねない。だから、これは手伝ってもらうのは仕方がない。読書感想文も家にあったエルマーの冒険で済ませた。目下の問題は――自由研究である。

「灰原は自由研究何にするんだ?」
「まだ決めてないわね、飯塚くんは何にするの?」
「まだ決めてねーよ。小学校一年レベルの自由研究って何」

 そう言って小学生向けの自由研究参考文献――というより自由研究指南本――を開く。図書館で借りては見たが、どう考えても高学年向きだった。いや、まじで小学校一年生レベルの自由研究ってなんだ。
 少年探偵団の集合の待ち時間だ。いつもは公園で集合していたが、流石にこの暑さを考えると集合場所を公園には俺はできかねる。子供の身長と大人の身長でアスファルトからの熱の伝わり方が違うから余計にだ。アキも暑くなってきてからは昼間ではなく少し涼しくなってから大道芸をしたり、やってくる子供が熱中症にならないよう配慮しているようだ。そう言ったことも踏まえて、夏休み中の集合場所は博士の家か(灰原がいなければ)ポアロなのである。博士達も二つ返事で許可してくれるしな。そんなこんな、俺は灰原相手に夏休みの宿題の件を聞くべく少し早い目にきて、話しているわけだ。

「普段してる研究をまとめてみたらどう?」

 灰原の声からして恐らく呆れているというよりは揶揄っていると思われる。本から灰原に視線を移せば、向こうは向こうで漢字の書き取りをしているのが見えた。……中身大人が漢字の書き取りってめちゃくちゃシュールだな。というか。

「どこの小学生が法医学の研究をまとめんだよ。異常者じゃん」
「きっと飯塚くんが何かで逮捕された時はニュースに出るわね」

 灰原の言葉に俺は項垂れる。馬鹿いうな、と言いながらもう一度『小学生の為の自由研究』と書かれた本を捲る。もうこれにすがるしかない。工作系は、アキの手を煩わせる。手先が同じく器用な高遠の手を借りるのはちょっと嫌だ。研究系といっても塩の結晶の観察には顕微鏡がいるし、機械工学系はのめり込んで小学生の枠を飛び出る可能性がある。

「今日は海に行くんだし、海にいる生物まとめでも作ったらどう?」

 灰原の言葉に「それはあり」と素直に頷いた。と、おもったが、メンツがメンツである。いや、でも、毛利探偵はいないんだし! 少年探偵団だけだし! デジカメで写真を撮って調べてまとめるだけだし! よし、それでいこう! と思っていたら灰原がつぶやいた。

「水死体が混ざらなかったらいいけど?」

 それをフラグと人はいう。