月夜のワルツ-8-


「よういちくんは、」

 僕の部屋でベッドに座ったアキはそうぽつりと言葉をこぼした。そんなアキにどうしかした?と尋ねる。ぎゅと僕の枕を抱きしめたアキの首元にはヒモの跡があった。暫くは跡が残るだろうそれは、酷く毒々しい。包帯を巻こうとしたが、アキが嫌がったのでやめた。怯えようから伺うに、正面から首を絞められたに違いない。小学生と高校生の力の差は、大きいのだ。彼女が生きていたのは、霧島が恐らく、焦っていたからだろう。ちゃんと確認することがないままだったから、彼女は死ななかった。
 アキは目を泳がせて、枕に目を落とす。

「わたしが、じゃまなんですよ、ね、」
「……霧島に言われた?」

 黙り込んだアキ。おそらく、図星、なんだろう。何を勝手なことを言ったんだ、と思う。
 それと同時に、最初、僕を見た時に怯えた謎が解けた。おそらく、アキは、あいつの戯言を信じて、僕を霧島の共犯だと思ったのだ。だからあんなにも怯えて、謝った。

「僕はアキを邪魔だと思ったことはないし、嫌いだと思ったこともないよ」

 そうベッドサイドに座り彼女の頭を撫でる。アキは僕を見た。

「大丈夫、僕がアキを嫌いになることはないから」
「ほんとうに?」
「あぁ。本当だよ」

 僕の返答に、アキは少し考えて、首をかしげる。

「……ずっと、一緒にいてくれる?」
 家族みたいに。

 そう僕を伺うように告げたアキはまるでウサギのようだ。そんな彼女を大事に大事に抱える。

「……アキが嫌がらなかったらね」

 そう告げたのは紛れもない本心だけれども。

「嫌がりません」
「本当に?」

 今度は僕が疑う番である。

「うん、本当です」
「なら、アキ、約束してくれる?」
「……?」
「秘密にしてほしいんだ」
「秘密?」
「うん、この事件の犯人も。君が誰に襲われたのかも。僕が櫓を燃やしたことも、全部」
「……しらないふり、ですか?」
「うん」
「いったら、よういちくんは、いなくなりますか」
「うん。そうだね」
「いいません、ぜったいに、だから、いなくならないでください」

 そう言ってアキはまたポロポロと涙を流す。随分となつかれたな、と思う。でも、それが鬱陶しいとは思わないのだ。そして、多分、これからも思うことはない。

「いなくならないよ、大丈夫。……さぁ、アキ。もう、寝よう。僕がそばにいるから、大丈夫」

 そう言って、彼女を寝かす。ゆっくりと目を伏せた彼女の髪を梳いた。
 彼女の目の前からいなくなる時は、彼女が僕を嫌がった時か、この秘密がバレてしまった時、だろうか。しばらくは、そんなことはなさそうだけども。

 ――この事件の真相は、僕と月、そしてアキだけが知っている。

 誰も知らない、僕達の、秘密だ。