一
クリスマスが近づいてきた。浮き足立つ街は見ていて飽きることはない。何もクリスマスに浮かれているのは街だけでなく、この図書館も例外ではなかった。エントランスに置かれたツリーに、菜乃花と新美先生と宮沢先生――通称「子供組」がはしゃぐ。まぁ、実際の子供は菜乃花だけなのだけれども、どうしても僕を始めとした多くの人が新美先生も宮沢先生も子供と判断してしまうから仕方がない。
ちなみに大きなモミの木は海野さんがどこからか持ってきてくれたらしく、今日の朝一番に彼女と一緒に働いている佐藤先生達が運んでいた。按司くん達までかり出されていたみたいだけれど。飾りは高村さんや棋院くん達が事前に買ったり作ったりしてくれていたらしい。菜乃花がワクワクした表情で飾り付けられていくツリーを見上げた。
特務司書発足から一ヶ月と少し。最初はバタバタと忙しなかったけれど、最近はようやく余裕が出てきたし、それぞれの司書も独自の仕事の進め方がでてきた。例えば棋院くんは午後よりも午前中の方が仕事に集中できるのか、午後からはゆっくりと紅茶やコーヒーを飲みながら仕事をしていることが多い。その逆を行くのが按司くんで彼は午前中はほとんど働かないけれど、午後からはやる気を出して頑張っている。
「棋院は朝型、俺は夜型」
「お司書はん、その夜型に付き合わされてるワシらの身にもなってほしいわ。ま、イヤではないけどな」
そうケラケラと笑ったオダサクさん――最初は織田先生だったけれど、本人にやめるように言われてしまった――に按司くんは「ほらな」と肩をすくめた。
「安吾とか今の時間はまだ寝てるぞ」
「まぁ、安吾はそういう奴やからなぁ」
「君って、本当に物怖じしないなぁ」
先生達を呼び捨てにするなんて。
ついつい口に出してしまった言葉に、オダサクさんが「せやろ?」と告げる。
「ま、とっつきやすいお司書はんで良かったですわ。海野さんとか全然会わへんからどんな人か未だわからんもん」
「ああ、海野さんは八時半ぐらいに来て五時半ぐらいにはこの図書館からいなくなるからね」
「は?」
「会社員か、アイツは」
そう顔をしかめた按司くんに僕もよく知らないけれど、と苦笑いししておく。あの子は館長の許可を得てそうしているのだと聞いた。だから、必然的に彼女の仕事時間はその間になるし、彼女が転生させた文豪達もその間は協力している。だから、五時ぐらいから各々好きなことをしている、とは佐藤先生に聞いた話だ。
「まぁ、菜乃花の仕事もしてくれてるから文句は言えないよね。書類も早いし」
「ははぁ、お司書はんとは正反対・・・・・・」
「ああ? 俺も早いだろ」
「ちゃうちゃう、確かに取りかかりから完成までは早いで? でも、取りかかりが遅いねん。意味ないやろ?」
「締め切り前のほうがやる気でるだろうが」
「それは否定せえへんわ」
いやいや、否定しようよ、と苦笑いする。でも、真理やろ? といわれてしまえばそこで僕も何も言えなくなってしまうのだけれど。
「菜乃花は普段何してるんだ?」
「菜乃花の仕事は絵日記と手紙を書くことだからなぁ。なんでも海外にいる両親に送るんだとか。後は遊んでるよ」
「自由やな」
「じゃあ、立川は?」
「立川さんは普通だなぁ」
そうぼんやりとつぶやく。彼女は本当に普通だ。少し石川先生や萩原先生達に振り回されている節はあるけれど、中野先生も悪いようにいっていなかったし。
「ああ、その感想わかるわ。あの子、なんか『これぞ普通』って感じやもんな」
「周りが濃いだけだろ」
「それもあるけど、ちゃうねん。ほんまに『普通』やで。地味な感じとか、雰囲気とか、どこにでもおる感じ」
「おい、俺が濃いことは否定しろよ」
「ケッケッケ。この図書館で一番濃いのはお司書はんやで」
そうケラケラ笑ったオダサクさんに按司くんがプロレス技を仕掛ける。恐らく緩く、だろうけど、オダサクさんは苦しそうに「あかん! あかんって!」と騒ぐ。エントランスは声が響くな、と思っていたら、やってきた国木田先生が「また何時ものやってるのか」とあきれたように笑った。
「司書、オダサク、この前みたく怒られてもしらないからな」
「国木田せんせ! 助けてや!」
「あー、俺は関係ない。坂口起こしてくる」
そう踵を返した国木田先生に首をかしげる。彼が見ていた先を見れば、永井先生が歩いてきていた。按司くん、そろそろ、と声をかけようと按司くん達がふざけていた場所を見ると、按司くんがいなくなっている。オダサクさんが「ひどいわぁ」と小さく嘆いた。
「あれ、按司くんは」
首をかしげた僕に、オダサクさんが「お司書はんはいつもこうやで」といいながら立ち上がった。
その後、永井先生には僕とオダサクさんが注意されてしまった。複雑であるが、騒いだのは事実だからなんとも言えない。按司くんはというと、坂口先生を引きずって、何食わない顔で国木田先生と歩いていた。
「遅いぞ、オダサク」
「見捨てといて何言うてんの、お司書はん」
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