序・特務司書の話-一-
なんというか、どこにでもいるような女子大学生をそのまま社会人にしたような女の子である。いや、そう思うのは彼女の周りというか他の特務司書が少し風変わりだからかもしれない。とにかく、彼女は目立ったこともないとても普通の女の子である。そんな人だから、啄木先生や花袋先生に振り回されているのかもしれないけれど。
「多分、僕らの司書は詩集が好きなんじゃないかな」
廊下でそう告げたのは彼女が初めて転生させた文豪の中野重治先生だ。僕は「多分?」と首をかしげる。
「あんまり何が好き、っていう話にはならないけれど、司書室の机の片隅にはいつも誰かの詩集が乗ってるから」
「あまり話さないんですか?」
「ううん、そういうわけじゃないんだけど――……あの子が仕事で精一杯って言う感じだから、なかなかそう言う個人的な話は切り出せないんだよね」
中野先生は苦笑いして見せた。確かに彼女は今慌ただしく毎日を過ごしている。まぁ、それはわからなくもない。なぜなら、今までの生活とはかなり変わってしまうからだ。社会人になるって言うことはそういうこともあるのだろうけれども。
「仲が悪いって訳じゃないんですよね?」
「あの子が良い子だからね。もう少し、落ち着いたときに色々と話してみるよ」
中野先生はそう言って彼女の司書室をノックした。司書室の中は少し騒がしい。返事がないそれに苦笑いした中野先生は慣れたように扉を開ける。中を見れば、萩原先生が転んでしまったのか励ましている立川さんと花袋先生、焦ったような啄木先生がいた。
「司書さん、東さんが書類引き取りに来たよ。……どうかしたの?」
そう首をかしげた僕と中野先生に、立川さんは頭を抱えた。
「その書類をですね、石川先生が落としてそれを踏んだ萩原先生が転んで……」
「破いたって訳だ!」
開き直ったように花袋先生が告げる。なんだって。それを聞いて中野先生は「それは仕方ないよ」と告げた。
「東さん、今から書き写すから少し待ってもらっても良いかい?」
「あー! えっと、中野先生は他のことやってもらいたいので私がやります! 三十分で書きます!」
そう告げた彼女に、僕は苦笑いする。なるほど、彼女は周りに振り回されるタイプの苦労人らしい。
「書類、明日にしてもらってくるね」
「ありがとうございます……」
彼女はそう言って何処か遠くを見るように散らばった書類を見た。
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