三
文豪達を巻き込んでくじ引き大会が行われ、誰が誰にプレゼントを贈るか決まった。ちらほらと外に買いに行く人も現れて、外出する人も頻繁に現れている。しかし、それは僕や館長、特務司書の誰かが一緒に行くことが条件になっている。『まだこの時代になれていない文豪達に配慮して』というのは建前で、放っておくと飲み明かして帰ってくるとか放浪して帰ってこないことが予想できるからだ。
現に按司くんが坂口先生とオダサクさんを連れて出かけた際、帰ってきたのは翌日で酒臭かったのを覚えている。プレゼントを買いに行ったんじゃなかったのか、と僕が怒ったのは記憶に新しい。
今日は立川さんが買い物に行くらしい。一人で行くの? と尋ねれば、恥ずかしそうに彼女はうなずいた。どうやら恋人のプレゼントも一緒に買うから、ということだ。いってきます、と笑顔で出て行った彼女を見送る。
「恋する乙女って感じだなぁ」
立川さんのイメージが変わりそうだ。何処かおとなしくて目立たない、普通の人だったけれど。
その日の夜のことだ。そろそろ戸締まりをしないとな、と思っていれば、扉の外から立川さんの酷く上ずった声が聞こえた。平手打ちをしたのだろう音も。なんだ、どうした、と手伝ってくれていた文豪達とこっそりとエントランスを見る。立川さんが一人の青年の頬を打ったらしいことがわかった。見たことのない青年だ。
「嘘つき」
「それはお前だろ」
「大嫌い」
「俺もな」
「もう来ないで!」
「俺も会いたくない」
そんな言葉を交わして、青年は図書館を出ていった。それを見送って、立川さんは口を開く。その光景は見たことがあった。僕にはあまりなかったけれど、よくあるワンシーンのようで。
――どうやら、彼女が楽しみにしていた日は最低の日へと変わってしまったらしい。
「浮気者、大嫌い、嫌い」
早口でそう告げた立川さんはその場に佇んだまま、小さなか細い声で呟いた。
「好きだったのに」
恐らく、その発した一言で堤防が決壊したのだろう。立川さんが泣いている声がする。
「だからなりたくなかったの!」
それが何を示しているのかは、僕にはわからない。ただ、近くにいた按司くんは眉間に皺を寄せて、扉を開けて駆け寄ろうとした重治さんは目を小さく逸らして立ち止まった。
海野さんが按司くんと視線を交差させた後に、ため息をついて、エントランスの広い階段を下りる。
「立川さん」
彼女の言葉に、立川はピクリとも動かない。海野さんが小さな子を案内するように場所を変えさせようと手を引けば、立川さんは蹲る。
「もうやだ」と子供のように泣いた立川さんを海野さんは子供をあやすように抱きしめていた。
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