五
中庭である。坂口先生とオダサクさんと喋っていた按司くんに海野さんはそう尋ねた。といっても、男子高校生のようにワニが云々と騒いでいるのを按司くんは見ているだけなのだけれど。僕も休憩がてら隣にお邪魔してその騒動を見ていたけれど、僕が思うにあの生物は館長があのときの実験で生み出した――っとこれは検閲されそうだから黙っておこう。
「何を?」
そう按司くんがタバコを口にくわえた。――といっても彼はiQOSと言うものを好むが故に、あの独特の煙はない。最近外出した先で買ってきたらしい。
「立川さんのこと」
「さぁな」
肩をすくめた按司くんは海野さんを見る。
「立川の言葉、どう思う?」
「昨日はああやって慰めたけれど、わからないね。私の『普通』は周りにとって特殊だし」
「そうだったな。俺たち五人に誰も普通の人はいない。自覚があるかないかは別として」
「やめちゃうかな、特務司書」
海野さんはそう言ってベンチの背から池を見つめる。
「さぁな。立川が辞めるならお前は引き止めるか?」
「引き止めないと思う。彼女が選んだことなら」
「え」
「お前、意外とドライだよな」
「按司は引き止める?」
「するかよ。ただ、外に出たって何も変わりゃしねぇよ」
そうまた按司くんはタバコを口に加える。それを見た海野さんが首を傾げた。
「タバコってみんな吸ってるけど、美味しいの?」
「佐藤さんに聞け」
按司はそう言って海野さんを追い払う。海野さんは気にしていないのだろう。そのまま歩き出し、慌てたような菜乃花と賢治たちに捕まった。按司くんはそれを見て、タバコを蒸す。
「ここにいるのが、普通になれる唯一の方法なのにな」
按司くんはそれだけ言うとベンチから立ち上がり、二人に声をかけた。
「立川が出て行くらしいぞ」
それに振り返った二人、僕は按司くんを見る。嘘はついていなさそうだ。按司くんはそのままエントランスに向かった。僕は慌ててエントランスへ向かう。按司くんを追い越せば、坂口先生との会話が聞こえる
「止めないのか?」
「ああ、好きにすればいいさ。逃げるのも、戻るのもな」
本当にドライな子だな、と内心ごちて騒ぎの中心であるエントランスへ足を運んだ。
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